40年近くにわたる広告費推移(下)…ネット以外動向概況編(特定サービス産業動態統計調査)(最新)
2024/07/01 02:26
経済産業省が2024年2月20日付で公開した、特定サービス産業動態統計調査の年次ベースの時系列表における最新データを基に、日本における広告費の動向を精査している。今回はインターネット「以外」の広告費動向について、中長期的な動きを確認していくことにする(【経産省広告売上推移(経済産業省・特定サービス産業動態統計調査)】)。
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次のグラフはいわゆる4マス、具体的には新聞・雑誌・テレビ・ラジオのうち、動きが特に著しい紙媒体2マス、新聞と雑誌についてその動きをまとめたもの。
↑ 新聞と雑誌の広告費(億円)
ここ数年右肩下がりなのは両媒体とも同じだが、特に新聞の減少傾向は今世紀に入ってから生じているもので(【新聞の推定購読者数の推移】などの動向とも一致する)、「インターネットによって購読者が奪われた」事実のみを新聞の凋落(部数や広告費関連の落ち込み)とするのには無理があることが分かる(もちろん大きな要因には違いない)。またリーマンショック(2008年9月-)の影響の大きさの再確認、そしてそこからやや持ち直しを見せ、2012年には反転の兆しすらうかがえたのが把握できる。もっともそれも「ぶれ」に過ぎず、それ以降は再び減少基調に戻り、それが直近の2022年まで続いている。また2020年における減少度合いの著しさも確認できる(もちろん新型コロナウイルス流行の影響)。
今件をもう少し分かりやすくするため、特定サービス産業動態統計調査の公開データで一番古い年数、1988年の広告費を各項目ごとに基準値の「1.0」と設定、その後各媒体がどのような変遷を遂げているのかを計算したのが次のグラフ。例えば1988年にある項目が1000億円を示していたものが、1995年に2000億円にまで成長していれば、1995年の値は 2.0(2000÷1000=2.0)となる。これならば各メディアの広告市場の大きさの違いに惑わされずに、個々の市場ごとの変遷が把握可能となる。
↑ 主要媒体の広告費(1988年の額を1.0とした時の相対値)
一般広告は2006年以降においてはインターネットの分が引かれていることを考慮してほしい。その上で考察すると、
・雑誌やテレビは一般広告とともに前世紀末までは同じような成長過程を見せている。
・世紀の切り替わり前後以降、雑誌・テレビと一般広告との間には差ができるようになった。前者は成長を止め、なだらかな下落、後者は成長を続ける(赤丸部分)。
・2005年以降雑誌とテレビは明らかに減少カーブを描くようになる。しかし一般広告は景気全体が後退する2007年までは成長を続ける。
・2007年以降は景気後退のあおりを受け、どのメディアも下落。特に雑誌は下げ幅で先行する新聞やラジオに追いつくほどの勢いで急降下。
・直近の2023年分を含む近年では、持ち直しの気配を見せたが失速に転じているテレビや一般広告と、減少の末に低迷を続ける新聞・雑誌・ラジオとの間で動きが二分される状況がはっきりと認識できる(緑の丸部分)。
・テレビと一般広告はリーマンショックの影響も大きく受けたが、その後は少しずつ復調過程にある。しかしここ数年では息切れ、下落の動きに転じた。
・2020年では一般広告やテレビの落ち方が著しい。テレビは2021年に戻しを見せるも、2022年以降で再び落ち込む。
などの傾向が見て取れる。
特に注目したいのは2つのターニングポイント。つまり「世紀の切り替わり前後」(赤丸部分)と「2004-2007年」(青丸部分)。後者は、ライバルたるインターネット広告の登場が影響し、テレビや雑誌、特に好景気時に連動して上昇するはずのテレビが落ちたのは明らか(今調査でインターネットが独自項目化した、つまり独立項目化するほどの影響力を持ったのも2006年から)。
もう一つ気になるのは「世紀の切り替わり前後」(赤丸部分)の時期。景気後退期に突入するあたりで広告費が減るのは理解できるが、テレビと雑誌の差異の原因としては考えにくい。色々と理由は想定できるが、そのひとつが【複数データを基にした携帯電話の普及率推移】で説明している携帯電話(インターネット機能の話は抜きにした)の普及率。この時期に携帯電話の普及率が50%を超え、「二人に一人がケータイ保有」状態となっている。
「テレビは携帯電話との『ながら利用』ができるが、雑誌は難しい」「携帯電話が普及しはじめたから雑誌への注力時間、費用投入が減り、結果として購入者減少、媒体力低下、広告費の削減につながった」との仮説を、このデータのみで確定するのは不可能。しかし要因の一つとして携帯電話が何らかの影響を与えたとする推論は、納得できるだけの説得力を持つ。
人間に与えられた時間は、誰にも平等で、一日は24時間しかない。そして可処分所得は変化しないどころか減少する傾向にある。携帯電話(とりわけスマートフォン)やインターネットにこれまで以上に時間・お金を割くに連れて、それより優先順位が低いものへの注力が減らされるのは当然の話。
広告費動向の順番としては「元々新聞やラジオは成長を止めていたが携帯電話・インターネットの普及で下落に加速がついた」「テレビや雑誌は携帯電話の普及で成長を止め、インターネットの普及で減退をはじめるようになった」の順と見てよいだろう。もっともテレビに対する注力が増加する気配も見えているが、これは年齢階層別人口構成比も多分に影響していると考えられる。【テレビの視聴時間は若年層から中年層で減少中、高齢者はほとんど変わらず(最新)】の通り、高齢者一人あたりのテレビ視聴時間は伸び続けており、しかも高齢者数自身も増加中。広告媒体としてのテレビの価値は上がり、必然的に広告費が高まるのも道理は通る(ただし年齢階層による偏在は顕著なものとなる)。
これらはあくまでも「広告費の売上」ベースにおける話。例えば雑誌や新聞なら媒体自身の売上のように、他にも収益をあげる手段は複数存在する。他方、広告主が広告費をかけてまで広告を載せたい・打ちたいメディアには、それなりの集客力・媒体力がある。必然的に媒体そのもののセールスなどとも深い関係が考えられる。今回の「広告費推移」も、各個の媒体の勢いの動向と大きな差異は無いものと見て問題はあるまい。
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