20代雇用者のうち1/4は年収が300万円台…子育て世代=若年層の所得伸び悩み具合(最新)

2023/10/29 02:43

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2023-1017内閣府では多様なプロジェクトチームのもとに多方面から社会の現状の分析と、状況の改善のための施策提案を行っているが、その一つが「少子化社会対策白書」。これは結婚関係や育児の観点から各種統計資料を収録、対応政策などをまとめた白書である。今回はこの白書に記述されている案件を基に、一次データを直に抽出検証することで、所得分布を介して、子育て世代=若年層における所得の伸び悩み具合について見ていくことにする(【少子化社会対策白書】)。

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今白書内で少子化傾向の一因として取り上げられている、「子育て世代=若年層における所得の伸び悩み具合」に関する記述は、総務省による【就業構造基本調査】から抽出されたもの。これは5年おきに行われている調査であり、現時点では最新値として2022年の調査結果が公開されている。そこで今回、就業構造基本調査そのもののデータをあたり、独自で同概念のもとに集計・精査を行い、グラフを作成し状況を確認することとした(すでに詳細データが出ている過去の分も精査し直し、正しい手法であることは確認済み)。

抽出したのは2002年・2007年・2012年・2017年・2022年の5回分。就業構造基本調査そのものは1997年以前のものも調査結果が収録されているが、収入の区切りが2002年以降のものと異なり、双方を一致する形で再集計すると、区切りが非常に大雑把、かつ不揃いなものとなってしまう。そこで1997年以前のものは省略し、2002年以降のものに限り精査を行うことにする(白書では逆に新しい値も古い区分に均して計算しているため、1997年からのものとなっている)。

次に示すのは子育て世代にあたる20代・30代を世帯主とする世帯(有業者のうち雇用者)における、世帯年収階層別の雇用者構成を示したもの。例えば世帯主年齢が20代・2022年における300万円台の比率は25.0%なので、2022年の20代における、雇用者(雇われ人)のうち1/4は年収が300万円台となる。

↑ 世帯所得階層別雇用者構成(世帯主年齢20代、就業構造基本調査より)
↑ 世帯所得階層別雇用者構成(世帯主年齢20代、就業構造基本調査より)

↑ 世帯所得階層別雇用者構成(世帯主年齢30代、就業構造基本調査より)
↑ 世帯所得階層別雇用者構成(世帯主年齢30代、就業構造基本調査より)

2012年までの動向を見るに、20代ではいずれの年も最大該当層は200万台で変わりはないが、その層は漸増、100万円台はやや減っているものの、100万円未満は増加。また300万円台はイレギュラーな動きを示しているが、それ以上の収入層では概して減少しており、全体的な平均が下がっていることがうかがえる。ただし600万円台以上を見ると、800万円台から900万円台で、2007年から2012年にかけて0.1%ポイントの上昇が起きており、誤差の範囲ではあるが、わずかな希望も見られる。

他方2017年分を見ると100万円未満の層はわずかに増加を示しているものの、1000万円台や200万円台、300万円台などの低所得層の比率は押しなべて減少、それ以降の400万円台以降は明らかに増加を示しており、所得面での伸び悩み傾向に転換の動きが見られる。

30代になると世帯間格差が大きくなり、年収にもばらつきがみられる(縦軸の区切りで上限が、20代は30%だが、30代は25%で済んでいることに注意)。2012年までの動向では最大回答層も400万円台となり、20代の200万円台よりは上昇している。またその他の回答率も含め、全体的に偏りの度合いが弱まり、平たん化している状況がうかがえる。もっとも1000万円以上の層の値が抜き出ている点は、20代よりも格差が拡大していることになるのだが。

そして2017年分では20代同様に低年収層の比率は大きく減少し、600万円台以降が大きく増加している。明らかに伸び悩みから脱した雰囲気が感じられる。2012年までの収入構造の低額シフトからの転じた動きは、喜ばしい話に違いない。

ところが2022年になると状況は大きく変化する。20代では100万円未満こそ減ったものの、100万円台-400万円台までが増え、500万円台が減る。30代になると200万円台-400万円台が大きな増え方を示し、それ以上が大きく減っている。明らかに世帯所得の減少が生じている様子がうかがえる。特に20代よりも30代で減少度合いが著しい。新型コロナウイルスの流行で生じた景況感の後退や雇用情勢の悪化、さらにはロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた物価高による景気悪化が影響しているのだろう。

今件はあくまでも金額ベースの話。物価が下がっていれば、所得が低迷していても生活環の厳しさはある程度緩和できるが、【1950年と比べて8.91倍…過去70年あまりにわたる消費者物価の推移(最新)】にある通り、20世紀末以降は消費税率の引き上げによる影響以外ではほとんど物価に変動はない。ただし2014年あたりからゆるやかに、そして2021年以降は明確な形で物価の上昇が生じている。

↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、年次、1950年の値を1.00とした時)(2023年分は直近月の値)(再録)
↑ 消費者物価指数(全国、持家の帰属家賃を除く総合、年次、1950年の値を1.00とした時)(2023年分は直近月の値)(再録)

これらのデータからは、子育て世代の所得分布は今世紀に入ってからは継続して低所得層にシフトしていたこと、2017年の時点でその動きから転じ、所得が増加する雰囲気が見受けられたこと、そして2022年でその動きが反転し、むしろ所得が減少する流れが生じてしまっていることが分かる。



他の複数記事でも繰り返し触れていることではあるが、子育てにおいて金銭の問題ですべてが解決されるわけでは無い。それと同時に、金銭はさまざまな物品・サービスを代替可能な存在なので、子育て問題においては最重要の案件・要素であることも否定できない。

今件データは雇用者における収入構造である事を考えれば、若年層の収入、さらにはそれを押し下げる要因となる雇用・就業環境問題の改善が強く求められよう。それゆえに2022年における減少の動きには大いに留意したいものだ。


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