会話や近所付き合いから見る高齢者の「ぼっち」状態(高齢社会白書)(最新)
2020/09/04 05:13
2020年7月31日に内閣府は同府公式ウェブサイト上において、日本の高齢化の現状や今後の予想、それらに対応するための各種施策をまとめた白書「高齢社会白書」の最新版(2020年版)を公開した。今回はその白書に記載された公開値を中心に関連する調査の結果も用い、「一人暮らしの高齢者と周辺環境動向」に関して確認をしていくことにする(【高齢社会白書一覧ページ】)。
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会話頻度が圧倒的に少ない高齢一人暮らし
以前【高齢者世帯数の推移】などで解説した通り、現時点で高齢者世帯(65歳以上(高齢者)のみで構成されている、あるいはこれに18歳未満の未婚の人が加わった世帯)のうち約半数は単身世帯。しかも女性単身世帯の数は男性の2倍近くの差異を示している。女性が多いのは平均寿命の違いによるもの。
↑ 高齢者世帯数(世帯構造別、万世帯)(再録)
高齢化社会の進展につれて、今後ますます「高齢者一人だけの世帯」の増加が予想されるが、特にそのような世帯(=高齢者本人)におけるコミュニケーションはいかなる状況なのだろうか、それが今回スポットライトを当てるポイント。
まずは会話の頻度。2020年の白書では該当言及部分が無く(似たような話として「近所付き合いの程度」は後述の通り記載が確認できる)、以前掲載されていた調査結果を流用することになるが、今グラフでは「毎日」「分からない」以外の回答のみを積み重ねている。つまりグラフ上の値が大きいほど、会話をあまりしていないことになる。口頭以外に電話や電子メールも含むことに注意。「会話」よりも「コミュニケーション」の表記の方が適切かもしれない。
↑ 会話の頻度(電話や電子メール含む、該当項目以外は「毎日」「分からない」、(60歳以上対象、高齢者の経済生活に関する意識調査、男女別・世帯構成別)(2011年)
夫婦のみ、その他の世帯も合わせ、全般的に男性の方が値が大きい、つまり他人との会話頻度は男性の方が低いことが分かる。高齢者全体では「毎日他人と言葉を交わしてはいない」人は1割にも満たないが、男性一人暮らしに限るとその割合は3割近くにまで増える。しかも7.5%は一週間に一度も会話をしていない。今後の調査では今件該当項目に電子メールに限らずソーシャルメディアをはじめとしたインターネットによるサービスも追加すべきではあるが、行動性向・意欲、さらにはデジタル系ツールとの相性の点で考えると、仮にそれらの選択肢が加わったとしても大きな違いは生じないだろう。
近所づきあいと、困った時に頼れる人
無人島や過疎地帯に住んでいるのならいざ知らず、住宅地帯などなら近所付き合いもあるだろう、そう考える人も多いはず。その近所付き合いについては、次の通りとなる。
↑ 近所付き合いの程度(60歳以上対象、高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果、男女別・年齢階層別)(2018年)
↑ 近所付き合いの程度(60歳以上対象、高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果、世帯構成別)(2018年)
↑ 地域での付き合いの程度(社会意識に関する世論調査、男女別・年齢階層別)(2018年)
やはり一人暮らし、男性世帯における「近所付き合いの希薄さ」が目に留まる。上記二つのグラフでは、男女では「親しく付き合っている」の回答率が6.9%ポイントも異なる。さらに「親しく付き合う」の認識は個々で異なることを考えれば、男女の差異はさらに開いているのが現実かもしれない。
年齢階層別では75-79歳までは年齢とともに近所付き合いが良好化している。年齢による付き合いの考えの違いか、あるいは60代では定年退職を経て生活様式が変わったばかりで、新たな世界観における近所づきあいに慣れていないのか。今件調査だけでは断定が難しい。
世帯構成別では単身世帯が一番近所との関係が疎遠で、親と同居している二世代世帯が一番近所付き合いがよい。回答者自身が60歳以上だから、その親となると80歳は超えているはす。昔からの近所付き合いが継続されているという形だろうか。三世代世帯でも親の要素がある世帯の方が近所付き合いがよい実情を見るに、その推測は的外れのものではなさそうだ。
3つ目のグラフは区切りが単純ではあるが、「よく付き合っている」の回答率こそ男女でさほど違いは無いものの、「ある程度付き合っている」も合わせた「付き合いがある」の区切りで見ると、男性よりも女性の方が付合いの程度が親密であることがうかがえる。男性の60代は3割強が、近所付き合いがあまり・まったく無いと認識していることになる。
さらに高齢者世帯において、病気や一人でできない仕事の手伝いなどで困った際に、頼りになる人がいるかいないかについても確認をする。例えば自室の蛍光灯の交換も、高齢者にとっては難儀する事案となることだろう。これは普段の近所付き合いなどとも深く関係のある項目である。こちらも男性一人暮らしの希薄感は強い。「いない」「分からない」の人は全体では3.6%でしか無いが、男性一人暮らしでは21.6%に達する。おおよそ5人に1人は「病気や一人でできない仕事の手伝いなどで困っても誰も頼れない」状態。
↑ 病気や一人でできない仕事の手伝いなどで頼れる人がいない人・分からない人の割合(60歳以上対象、高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査、男女別・世帯構成別)(2018年)
直上の近所付き合いの差異が、一人暮らし世帯における男女の差にそのまま現れる結果が出ている。女性の一人暮らしも高めではあるが、男性の2割強と比べれば、まだ低い方ではある。
白書ではこれらの「一人暮らし」の現状に関し、デジタル系ツールの利用も絡めて、他人との接点を中心に解説を行っているが、それに加えて「孤立死(以前は「孤独死」と表記)」も増加の一途をたどるとの解説をしている。元々高齢者は増加中である以上、確率論的に「数」が増えるのは道理だが、単なる高齢者全体の増加以上に、「一人暮らし世帯」の増加が大きな拍車をかけている。
次のグラフは東京23区内における、自宅で死亡した65歳以上一人暮らしの人の数を示した図だが、確実に人数は増加している。また65歳以上の一人暮らし死亡者総数のうち、自宅での死亡者数割合は3/4前後を維持している。孤独死のリスクは大きな変化は無く、高齢者そのものの増加で、孤独死を迎える人の数が増えている状況も確認できる。
↑ 東京23区内における一人暮らしで65歳以上の自宅での死亡者数(人)
↑ 東京23区内における一人暮らしで65歳以上の自宅での死亡者の発見者(2018年)
実際、今調査の別項目によれば、一人暮らしの高齢者の多く(5割強)は、「孤立死」を身近な問題だと感じている(今件における「孤立死」の定義は、誰にも看取られることなく、亡くなった後に発見される死と説明されている)。
↑ 孤立死を身近な問題と感じている(60歳以上対象、高齢者の健康に関する意識調査、世帯構成別)(2018年)
夫婦世帯などと比べれば大きな違いであるのは一目瞭然。
今後はこのような「一人暮らしの高齢者」に対する社会の対応も、切実な問題として認識されるとともに、対応が求められよう。
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