高齢者の事故、自宅内の居室や階段で多数発生(高齢社会白書)(最新)
2020/09/07 05:15
内閣府では2020年7月31日付で最新版(2020年版)の「高齢社会白書」を公開したが、これは高齢化を迎えた日本社会が抱える問題点に関して、主に公的機関の調査結果を基にまとめ上げ、さらに各種施策について解説を加えたものであり、大変重要な報告書として注目に値する内容の白書といえる。今回はその中の公開値をベースとして、「高齢者の事故と住宅の関係」に焦点を当てて各種状況を確認をしていく(【高齢社会白書一覧ページ】)。
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住宅内事故は若老問わず多い、しかし場所では若年層と大きな違いが
先に【国毎に異なる「自分の体が衰えた時に住みたい家」とは】で解説した通り、日本でも高齢により虚弱化した際に、自宅をリフォーム(改装)して住み続けたいと考える人は多い。また、年齢階層別の回答値を見る限りでは、多分の高齢者がすでに高齢者向けのリフォームを自宅に施していることが考えられる。
↑ 自分が虚弱化した時に望む居住形態(60歳以上、日本限定、年齢階層別)(2015年)(再録)
これは見方を変えれば「自宅に住み続けたいが、そのままでは体が弱った自分にはリスクが大きすぎる」との認識が強まっていると解釈できる。無論リフォームの概念そのものが日本にも(高齢化とともに)浸透しはじめたのも一因。そして高齢者は体力などの問題から外出をひかえるようになるのも原因の一つだが、高齢者による事故は、その7割強ほどが住宅内との結果が出ている。若年層と比べると、6%ポイントほどの違いがある(空欄の属性は回答者がゼロ)。なおいくつかのグラフは、2019-2020年版の白書では解説そのものが掲載されていないので、2018年の値を用いている。もっとも一次資料が更新されていないのが原因なのだが。
↑ 事故発生場所(高齢社会白書(2018年版))
特にレジャー施設などと想定される「海・山・川など自然環境」「公共施設」、外出時には足を運ぶことが必要不可欠となる「一般道路」の値が高齢者は低く、住宅における値に積み増しされている感はある。つまり外出機会・割合そのものが高齢者の方が低い次第である。
家庭内事故の場所、きっかけを探る
もっとも事故発生事例が多い家庭内(住宅=自宅)。その家庭内における事故の「発生場所」「事故時のきっかけ」を記したのが次のグラフ。若年層は台所での調理、高齢者は居室や階段などで歩行していた時の転落・転倒事故が多いのが目に留まる(一部データは一次ソースにあたる【医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故−高齢者編−】を基に構築している)。
↑ 屋内事故の発生場所詳細(高齢社会白書(2018年版)、不明・無回答を除く)
↑ 家庭内事故時のきっかけ(2010年12月-2012年12月)
若年層は台所での事故が断トツで多く、次いで居室となっている。若年層は本格的な自炊をする機会が多い表れでもある。高齢者はトップが居室、ついで階段、そしてようやく台所となる。若者にとっては何気無い移動にも難儀を覚え、トラブルの原因となるようすがうかがえる。
その状況を明確化できるのが「事故時のきっかけ」。高齢層では階段の昇降時と思われる転落によるものが約3割とトップ(廊下や居間では「転倒」は十分考えられるが「転落」は不可能)。そしてごく普通の歩行時における「転倒」が2割強で続き、若年層ではトップの調理時における行動「刺す・切る」「さわる・接触する」(対象は調理で熱せられたものだろう)を抜いている。単なる移動ですら、高齢者、特に虚弱化した人には言葉通り「高いハードル」であり、事故に結びつきやすいことが分かる。それゆえ高齢者は今までの、若い時の習慣のままでは安全な生活ができなくなる心配があるからこそ、リフォームをして生活しやすいようにし、自宅に住み続けたいと考える次第。
他にも回答をよく見ると、「トイレ」「廊下」「玄関」のような、若年層から見れば事故の要因があまり想定できないような場所で、若年層の値を超えた高齢者の事故が確認できる。今件は高齢者住宅のリフォームなどによる配慮が必要なことに加え、(若年層にとっての)常識が通用しなくなることを十分理解した上で、高齢者には対応すべきであることを再確認させてくれる結果でもある。
さらに付け加えると、高齢者の事故は家庭内で発生したものでも、重篤化リスクは高い。同じような事故でも、若者にはほんのちょっとした打撲に過ぎないが、高齢者には骨折などの大けがに至る場合もある(同じダメージでも回復度合いは大いに異なる)。住宅内事故では、中等症(3週間未満の入院を必要とするケガや病気)の事例の割合が若年層の2倍近くとなっている。
↑ 住宅内における事故の危害程度(2010年12月-2012年12月)
運動能力や反射神経だけで無く、身体そのものが弱っている以上、過負荷にもろさを覚えるのは仕方が無い。本人自身が注意するのはもちろん、周辺の人も十分に配慮を払ってほしいものである。
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