健康意識は高いが…日本と諸外国における高齢者の医療サービス利用状況(高齢社会白書)(最新)
2022/11/13 02:57
内閣府は2022年6月14日に、日本の高齢化社会の現状と今後の指針について各公的調査などの結果などと合わせてまとめた白書「高齢社会白書」の最新版、2022年版を公開した。今回はその白書で用いられている資料を中心に、日本と諸外国の高齢者における、健康状態・意識の現状と、医療サービスの利用状況の双方について見て行くことにする(【高齢社会白書一覧ページ】)。
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医療サービスに関する国際比較
まずは日本と諸外国における、60歳以上の高齢者(日本では「高齢者」は65歳以上を指すことが多いが、他国と合わせるために今件では60歳にしている)の、健康についての意識を尋ねた結果。日本では自分自身の状況について、現在健康であると答えた人は約5割となっている。
↑ 健康についての意識(国際比較、60歳以上男女)
韓国の「病気がちで寝込むことあり」がやや多めなのが目にとまる。他はアメリカ合衆国、スウェーデンがほぼ同水準で、ドイツの「健康である」がそれらの半分程度となり、その分「あまり健康だとはいえないが病気ではない」が多い(59.4%)。今回登場した諸国ではドイツが一番多い値となっている。
もっとも赤系統色の項目は本人の自己判断によるもので、意識の持ち方・国民性や環境要素、厚生インフラの対応も反映されるため、青色と灰色の部分、つまり軽くはない「病気」を持つ割合のみを特に注視すればよい(日本の場合は得てしてネガティブな反応を示しがちだが、今件では他国と変わらない良好な値が出ているのが興味深い)。しかしながらその観点でも、やはり韓国が一番多く、ドイツがやや多めとなっている。
一方自己判断ではなく、実際にカウントできる医療サービスの利用頻度を尋ねた結果が次の図。高齢者自身の健康意識ではアメリカ合衆国やスウェーデンと並び高水準(健康のように見える)だった日本が、韓国と同程度の高頻度での利用傾向(色々と体に支障があるように判断できる)にあることが分かる。
↑ 医療サービスの利用状況(国際比較、60歳以上男女)
日本の「月1以上の利用」が約6割との回答は、最初の「健康意識の回答」とは随分とかけ離れているように見える。
健康面で何らかの自覚症状を持ち、通院を繰り返していても、その通院が日常生活化している(当たり前だと認識している)、「通院しているが健康だ」「通院しているから健康を維持できている」と、各高齢者が考えているのかもしれない。その推測も含め、医療サービスの利用姿勢の点で、他国との差異がある可能性は否定できない。
日本国内の通院・入院事情
では実際に、日本国内の通院・入院事情はどのような状況なのか。次に示すのは今白書で資料元として呈示されていた、厚生労働省の【患者調査】を元に作成したものだが(3年おきの実施調査。現時点では2020年の調査結果分が最新)、これによれば高齢層は他の年齢階層と比べて通院(外来)・入院率が非常に高い値で推移している。まずは直近分となる2020年分の受療率を高齢層に限定する形で確認する。これは人口10万人対(該当する属性10万人に対する人数)で示している(調査では特定の一日を対象に各値を取得している)。
↑ 受療率(人口10万人対、受療種類別)(2020年)
外来の場合は病院・一般診療所以外に歯科診療所も含まれるため(歯科に入院する事案は有り得ない)、必然的に値は大きなものとなる。もちろん各病院の入院患者の収容キャパシティの問題もある。
男女で統計上のぶれは生じているものの、年上になるに連れて入院率も外来率も増加している状況が一目でわかる。75歳以上になると男女とも10万人につき約1万1000人、つまり11%程度が通院し、3500人ぐらい、すなわち3.5%ぐらいは入院している計算になる。
続いて外来、つまり通院動向について、各年齢階層の経年動向と、直近における高齢者の主要要因別の受療率。
↑ 外来受療率(人口10万人対、年齢階層別)
↑ 主な傷病別受療率(外来、人口10万人対)(2020年)
高齢層の外来率は他の年齢階層と比べ、群を抜いて高い実情が分かる。今世紀に入ってからは減少傾向にあるが(今件は絶対数ではなく対10万人比なので、高齢者人口の増加そのものには影響しないことに注意)、多少ながらも意識の変化が起きている、あるいは健康度が増加している可能性はある。もっとも高齢層人口は増加しているので、外来絶対数は増加しているのだが。
また主な傷病別では、高血圧や脊髄の障害で通院する人が多いこと、男女ともに心疾患や悪性新生物(がん)による通院率は年上になるに連れて高くなるが、特に男性で加齢による上昇度合いが大きいことが分かる。
続いて入院。
↑ 入院受療率(人口10万人対、年齢階層別)
↑ 主な傷病別受療率(入院、人口10万人対)(2020年)
入院率も外来同様に、高齢者は他の年齢階層と比べて一段と高いが、こちらもまた近年に至るに連れて減少する傾向を示している。そして絶対人数では増加しているのも通院と同じ。
傷病別では主な項目で度合いの違いはあれど、年齢が上になるに連れて受療率は増加していく。一方で男性は悪性新生物(がん)、女性は高齢において脳血管疾患などで異性よりも高い値を示している。ただし65歳以上全体や75歳以上全体の区分では、区切りの年齢以降すべてが該当するため、平均寿命の長い女性の方が「以上」区切りで高い値を示すのは仕方がないとの見方もある。切り口を変えれば、そのような事情があってもなお、悪性新生物(がん)では女性の方が入院率が低い。興味深い動きではある。
余談ではあるが、医療関連の話として気になる「死因」について、65歳以上に限定した値を見ると次の通りとなる。「10万人対」の数なので、実際には例えば悪性新生物(がん)の場合は0.9202%になることに注意。
↑ 65歳以上の高齢者の主な死因別死亡率(65歳以上人口10万人対、高齢社会白書(2022年版))(2020年)
全体の死因別死亡率は以前【主要死因別に見た死亡率(1899年以降版)(最新)】に記した通り。高齢者の死因を全体のものと比べると、「老衰」が上位に入っている以外は、値の大小はともあれ、順位に変わりはない。
【夫婦とも65歳以上のお年寄り世帯で「お医者さんまでは1キロ以上かかる」のは22.2%(最新)】などで解説しているが、高齢者にとってはかかり付けの医療機関が身近にあることが、安心できる環境条件の一つとなる。しかし高齢者は増加を続け、医師・医療機関数は横ばい、あるいは減少の動きすら確認できる。全般的な医療のあり方も含め、現状を精査し、医療を行う側が手いっぱいとなってしまい「本当に医療サービスが必要な人」が足踏みをさせられることの無いように、適切な対策を取ることが行政には求められよう。
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