「手取りからもっと貯蓄を」単身世帯の方が高い貯蓄割合(最新)
2024/03/30 02:33
将来や緊急事態に備え財を蓄積していくことは、人の知恵の一つである。中でも流動性が高く容易に他の物品やサービスに置換できる金融資産は、蓄財(貯蓄)の対象としてもっとも多くの人が活用している。それでは金融資産を貯蓄(今件では金融資産の取得に資金を振り向けることを意味する。金融資産は預貯金以外に貯蓄型の保険や有価証券も含まれる)している人は、一体どの程度の割合で手取りから貯蓄に回しているのだろうか。金融広報中央委員会の「知るぽると」が毎年調査公開している家計の金融行動に関する世論調査の公開データを介し、その現状や経年変化を確認することにしよう(【家計の金融行動に関する世論調査】)。
スポンサードリンク
増加していた貯蓄傾向だが
金融資産の保有世帯率はすでに先行記事の【金融資産を持たない世帯、夫婦世帯は1/4近く・単身は1/3強(最新)】で解説した通り。最近は金融資産を持たない世帯が増える傾向にある。これは金銭面での余裕がなくなったからというよりは、超低金利時代の到来に伴い、金融機関へのお金の預け入れにおいて貯蓄と常用の区分が難しくなっていることや、クレジットカードや口座振替の利用機会の増加に伴い一定額を利用口座に残しておく必要性が増していることなどが原因として挙げられる。
さらに2018年以降は設問の文言が変更され、より厳密な区分が行われたことから、金融資産保有世帯率は上昇を示している。もっとも直近2年間は前年比で減少の動きとなっているが。
↑ 金融資産保有率(単身・二人以上世帯)(2001年以降)(再録)
金融資産は臨時収入も含め、手取りからの蓄積によって構築される(中には遺産や宝くじの当選などイレギュラーに取得される場合もあるが)。それでは具体的に、手取りの中からどれぐらいの額を貯蓄しているのだろうか。5%区切りでその度合いを尋ねた結果が次のグラフ。単身世帯は2007年以降のデータしか存在しないので、二人以上世帯とは分けている。無論、金融資産そのものが無い世帯は貯蓄のしようがないので計算上からは除外している。
↑ 年間手取りからどれくらい貯蓄したか(二人以上世帯、臨時収入含む、金融資産保有世帯限定)
↑ 年間手取りからどれくらい貯蓄したか(単身世帯、臨時収入含む、金融資産保有世帯限定)
単身世帯では経年の変化はほとんど無し。一方で二人以上世帯では、明らかに貯蓄しなかった世帯が増え、そして貯蓄をしても貯蓄する割合が減っている(赤系統色が濃い=貯蓄割合が高い層が減っている)のが確認できる。現実問題として、可処分所得が減退して(貯蓄する余裕が無くなって)いることは、すでに別記事(【直近では実収入53万5177円…収入と税金の変化(家計調査報告(家計収支編))(最新)】など)で解説した通り。
ただし2018年以降では単身・二人以上世帯ともに、貯蓄しなかった世帯割合が大きく増加している。これは上記説明にある通り、金融資産に関する説明が大きく変わり、これまで厳密に金融資産としての貯蓄とは考えておらず、半ば貯蓄・半ば常用的なものと認識していた部分も貯蓄としてカウントされていたものが、明確化された結果だと思われる。2020年で二人以上世帯において貯蓄しなかった世帯割合が大きく減っているのは、後述するように特別定額給付金が影響しているのかもしれない(が、それならば同じような状態が2021年以降も続いているのは説明ができない)。また、新型コロナウイルス流行をきっかけとした調査方法の変更も影響しているのかもしれない。
平均金額で見ると意外な動きが
「具体的には平均でどれほどの金額が貯蓄されているのか」を直感的に把握するため、貯蓄しなかった人も含めた平均の「手取りに対する平均貯蓄割合」の推移を示したのが次のグラフ。例えば2023年の単身世帯は13%なので、貯蓄した人・しなかった人も合わせ、平均で手取りの1割強ほどが貯蓄に回されていることになる(平均値はおおよそ整数までの公開。一部年では小数点以下で公開されているが、ごく少数事例)。
↑ 年間手取りからどれくらい貯蓄したか(臨時収入含む、貯蓄しなかった人も含めた平均割合、金融資産保有世帯限定、世帯種類別)
二人以上世帯は「貯蓄をしなかった人」の割合が増加していることもあり、貯蓄割合は漸減。ただし今世紀に入ってからは事実上横ばい。一方で単身世帯は計測期間が短いものの、16年の間にもみ合いを見せながらも増加した上で14%からはほぼ横ばいに。両世帯種類間の差異はおおよそ5%ポイントを維持したまま。二人以上世帯と比べ単身世帯はより一層身構えている、との解釈が適切か。
なお2018年以降において単身・二人以上世帯双方とも値が落ちているのは、上記説明の通り金融資産関連の設問上の表記の変更によるものと考えられる。厳密には2018年以降の値の方が実情に近い値なのだろう。また2020年以降の増加の動きは新型コロナウイルス流行による支出の減少が影響しているものと思われる。特別定額給付金の給付も一部は関係しているだろうが、それでは2021年以降の動きの説明ができない(特別定額給付金は毎年給付されたわけではない)。
単身世帯では高い割合で貯蓄をしている世帯が増加して、単に貯蓄をするしないだけでなく、貯蓄の中身に関してもより一層濃い貯蓄をする人が増えているのが確認できる(2018年以降の落ち込みと2020年以降の跳ね上がりの原因は上記の通り)。
↑ 年間手取りからどれくらい貯蓄したか(単身世帯、臨時収入含む、金融資産保有世帯限定、高率貯蓄世帯率動向)
単身世帯では貯蓄が可能な世帯に限るが、特に将来に向けた貯蓄傾向は高まりつつあるようだ。
直上のグラフは「定期収入・臨時収入を合わせた年の手取り」に対する割合。臨時収入だけで見るとその特性から、貯蓄の傾向は大きく跳ね上がる。
↑ 臨時収入からどれくらい貯蓄したか(臨時収入が無かった世帯は除き、貯蓄しなかった人も含めた平均割合、金融資産保有世帯限定、世帯種類別)
年間の手取り全体からの貯蓄の率と比べると、二人以上世帯は2.45倍(直近年では11%→27%)、単身世帯は2.38倍(13%→31%)と、二人以上世帯の方が臨時収入における貯蓄傾向の増加割合は大きい。ここ数年、二人以上世帯における臨時収入での貯蓄傾向が大きく跳ねているのが気になるところではある。
■関連記事:
【総額1901万円、金利低下で定期が減り通貨性貯金が増える…貯蓄の種類別現在高(最新)】
【「自分の資産・貯蓄に満足」3割強、高齢者ほどより満足に(最新)】
【貯蓄率減少は本当なの? 家計の貯蓄率(最新)】
【「消費よりも貯蓄」…米消費性向の移り変わりを探る】
【二人以上世帯の総貯蓄の2/3近くは60代以上の世帯だけで保有…世帯主の年齢別貯蓄総額分布(最新)】
スポンサードリンク