「ハイリスク・ハイリターン」な金融資産、欲しい? 要らない?(最新)
2024/03/28 02:49
金融広報中央委員会の「知るぽると」は2024年2月29日、同会が毎年調査を行いその結果を定期的に発表している「家計の金融行動に関する世論調査」の最新版、2023年分の詳細統計表を公開した。今回はその公開値、さらには過去の値をあわせ、「ハイリスク・ハイリターンの金融商品への願望」についてチェックを入れていくことにする。投資と投機の区別はおろか、期待値計算によるリスク勘案ですら浸透しているとは言い難い日本の現状で、高リスク・高リターンの金融商品に対するイメージはどのような実態を有しているのだろうか(【家計の金融行動に関する世論調査】)。
スポンサードリンク
金融商品には「絶対儲かる」ものは無い。リスク(マイナスの結果を生み出す可能性)の大小と、そのリスク込みの商品を選ぶことで得られるかもしれないリターン(利益、収益)のバランスを考え、購入者自身で選択することができる(「買わない」のも選択肢の一つ)。今件項目では「元本(投入した資産)割れを起こす可能性があるが、収益性が高いと見込まれる金融商品」、つまり「損をするかもしれないが大きく儲けられる可能性がある金融商品」について、今後における購入・保有意欲を尋ねている。例えば株式、投資信託が該当する(預貯金などは該当しない)。昨今では仮想通貨も該当するだろうか。なお2019年までは設問において単純に「今後」ではなく「今後、1-2年の間に」との文言が用いられており、ニュアンスが微妙に異なることに注意が必要となる。
直近の2023年の調査結果では、保有そのものを希望しない人が単身者で56.7%、二人以上世帯で51.8%に達している。過半数はリスクを極力避ける傾向が見受けられる。
↑ ハイリスク・ハイリターン金融商品の保有について(2023年)
日銀から定期的に発表される資料を元に記事化している「家計資産推移」(直近は【日本の家計資産残高は増加、2043兆円に…日米家計資産推移(最新)】)や OECDの公開データを元にした「主要国の家計資産の構成比率」動向(直近は【日本では現金と預金が54.1%…主要国の家計資産の構成比率(最新)】)でも明らかだが、日本では諸外国と比べて(特に金融方面で)リスクを敬遠する傾向が強い。正確には冒頭でも触れている通り、「リスクとリターンの正しい関係」を習得していない感がある。あるいは強固な慎重さを持っている、と表現すべきか(その知識不足から逆に、自分が一度「儲かるかも」と思った・思わされた対象へは「絶対に儲かる」との信奉的な心情を抱きやすい傾向もあるように思える)。
また世帯種類別では単身世帯の方がリスクを強く避ける傾向がある。自分自身以外の守るべきもの「家族」があることや、リスクが生じた時に自分以外に迷惑がかかる対象が多いとの気負いがあるからだと考えれば、二人以上世帯の方がリスクを避ける傾向があるように思われるのだが。一般的には二人以上世帯の方が可処分所得が多くなるため、ハイリスク・ハイリターン金融商品に手を付けやすくなるのだろうか。
今調査項目の結果は2007年以降の値が取得可能。それらをまとめてグラフ化したのが次の図。単身・二人以上双方の世帯で、少しずつ反動を経ながらリスク回避傾向が強まっていたが、この数年はわずかずつだが状況が変化しているようすが確認できる。
↑ ハイリスク・ハイリターン金融商品の保有について(単身世帯)
↑ ハイリスク・ハイリターン金融商品の保有について(二人以上世帯)
以前はリスクへ立ち向かう勢いが二人以上世帯よりも強かった単身世帯の方が、リスク回避へと流れて行く動きも大きなものとなっていた。2007年といえば直近の金融危機…サブプライムローンショックに始まりリーマンショックに続く、長きにわたる不景気時代…が体現化した年でもあり、「リスクを避けよう」との考えが支配的になるのも理解はできる。
単身・二人以上世帯ともリスク回避の動きはより強固なものとなっていたが、双方とも2012年を底値に、少しずつだが再びリスクを取りリターンを求める動きに転じていた。これは株価動向や景況感の変化によるものと考えれば道理は通る。
もっとも単身世帯は積極的な保有傾向が強まりを見せる中、積極保有希望と消極保有希望を合わせた保有希望派全体に変わりは無かった。二人以上世帯は積極保有希望者に変化はほとんど無く、消極保有希望者が漸増していた。景況感の回復の中でも、より積極姿勢を見せる単身世帯と、少しずつ、慎重に歩みを示す二人以上世帯。それぞれの根底にあるリスク金融商品への姿勢が表れており、非常に興味深い。
2016年以降は単身・二人以上世帯双方ともに、保有しない派が少しずつ減る動きがある。それとともに単身世帯では積極保有希望と消極保有希望双方が、二人以上世帯では消極保有希望が増加する動きを示している。
2020年以降は単身・二人以上世帯双方ともに積極・消極ともに保有希望派の割合が増えている。これは上記で触れている通り、設問の文言が2019年までは「今後、1-2年の間に」と期間限定だったのに対し、2020年からは単純に「今後」とだけになったためだろう。特に二人以上世帯における増加が著しい。
また二人以上世帯に限れば、2020年までが訪問と郵送の複合・選択式だったのに対し、2021年以降はインターネットモニター調査法に変わったため(単身世帯は以前からインターネットモニター調査法)、積極・消極ともに保有希望派の選択肢を選びやすくなったのかもしれない。ただし保有希望派の大幅な増加傾向は2020年から生じているため、調査方法の変更のみが増加の理由とは考えにくい。
日本において金融商品を避ける傾向が強いのは、元々本質的な面での「安全志向」の他に、本文中でも触れている「リスクとリターンとの正しい関係」に関する知識・経験が不足しているのが要因と考えられる。要は「分からないから手を出さない」。
自分が理解できないものには手を出さない。これは投資の大原則。分からないものに手を出して利を求めるのは、投資ではなく単なるギャンブル。同時に自分自身へのより大きなリターンを、そして市場環境の改善、そしてそこから連なる景況感の回復を望むのであれば、「お金とは何なのか、どのような役割を果たしているのか」関連に始まる、経済や金融の基本的な、そして正しい知識のさらなる習得が必要(行政、市場側の視点では一層の啓蒙活動が欠かせない)。知識が無ければ魑魅魍魎、山師らによる「分かりやすい、けれど正しくない」偽りの言葉にまどわされ、カモとされてしまいかねないからである。
■関連記事:
【今一番人気の金融商品は「株式」でも「投資信託」でも無くて……!?】
【シニア層は金融商品に対して勉強熱心・1日1回はネットで情報収集、運転資産は4桁前半】
【個人投資家の約半数は「金融資産300万円以下」】
【注目は「株式」から「投資信託」「金」へ、7割は「自分で考え決めました」】
【投資をする前に確認すべき10のポイント】
スポンサードリンク