出版物の書店立地条件別での売上変化(2015年)(最新)

2015/10/30 05:38

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最近では住宅地域や地方にある昔ながらの個人営業を中心とした小規模書店が次々に閉店へと追いやられる一方、駅周辺の一等地にある大型書店が盛況を見せている。また近郊部に配された、レンタルショップやゲームソフト販売店などと機能を融合した複合的なエンタメサービス提供ショップ的な書店がよく目に留まるようになった。今回はそれら立地条件により、書店の売上がどのような違いを見せているのか、【出版物の種類別売上の変化(前年比)】でも取り上げた、日販による『出版物販売額の実態』最新版(2015年版)のデータを基に、精査を行うことにした。



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まずは立地別の売上高前年比。「SC」とは「ショッピングセンター(Shopping Center)」を指す。「商店街」や「駅前」と比べて、「郊外」の下げ方が無難な線で収まっているのは、いわゆる複合店が郊外に多いからではないかとの推測も成り立つ(これについては後程さらなる分析を加える)。また「ビジネス街」については「コミック」「文庫」の下げ幅が大きく、今回年では前年に続き、場所区分において最大の下げ幅を示すこととなった。

↑ 立地別売上高前年比(2014年)
↑ 立地別売上高前年比(2014年)

2013年と比べると「ビジネス街」は下げ幅を縮小したものの(2013年はマイナス8.1%)、その軟調ぶりにはやや驚かされる。他方「郊外」は前年同様に立地別では最小の下げ幅で済んでいる。とはいえいずれの場所でも前年比でマイナスには違いないが。

そこで今回は昨年から転じて大きな下げ幅を示した「ビジネス街」、そしてビジネススタイルとして特徴的な「郊外」について、細かい分類別を見ていくことにする。まずは今回の区分では一番下げ幅が大きい「ビジネス街」。

↑ 分類別売上高前年比(2014年、ビジネス街)
↑ 分類別売上高前年比(2014年、ビジネス街)

まず目立つのが「文芸」の下げ方。もっともこれは全体でもマイナス15.3%なので誤差の範囲か(下げ幅そのものの大きさの原因は先行記事にある通り、文芸そのものの軟調さに加え、前年のヒットセラーによる大幅な下げ幅縮小の反動によるもの)。ビジネス街を利用する就業者が時間の合間に読み進めそうな「文庫」、ネタ話の素材として用いそうな「新書」、そして何よりも「専門」「ビジネス」の類も小さからぬ下げ幅を示している。元々出版不況は全体的な傾向ではあるのだが、「ビジネス街」では必然的に就業者が多く、それらの人達はスマートフォンをはじめとしたモバイル端末の所有・使用率が高くなることから、紙媒体の書籍離れが他の属性より進んでいるのかもしれない。

唯一プラスを示した「総記」だが、実のところ立地別ではビジネス街がもっとも伸びている。この項目の詳細は辞典・事典・日記・手帳・その他と説明されているが、具体的にベストセラー中ではどのタイトルがこの「総記」に該当するか、判断が難しい。一方で全体では数少ないプラス分類となった「コミック」がマイナス5.5%と、立地別では最大の下げ幅。これが足を引っ張る形となった。

続いて特徴的なビジネススタイルを持つ「郊外」。

↑ 分類別売上高前年比(2014年、郊外)

↑ 分類別売上高前年比(2014年、郊外)

「ビジネス街」では「総記」のみプラスだったが、「郊外」では2分類がプラスとなっている。最大の下げ幅「文芸」のマイナス12.9%はジャンルそのものの不調や前年からの反動もあり仕方がない面はあるものの、その他の分類ではそれなりに踏みとどまっている。特に「コミック」のプラスは全体値でもプラスではあるものの、立地別では「郊外」だけがプラスであり、それが全体を押し上げる形となっている。

これはいわゆる「大手の郊外複合店」によるところが大きい。隣接する、あるいは内包されている娯楽系店舗への来店も兼ねて書店に足を運び、これらの書籍を手にし、購入していく。話題性の高い書籍、幅広い層が興味関心を覚える書籍が目に留まる機会も増え、結果として「コミック」が買われていく。逆に新刊が発売された「コミック」などを購入がてらに、娯楽系店舗にも立ち寄るパターンもあるだろう。

さて、その「郊外」も含め、立地条件別における書店の動向はどのようなものなのか。書店では額面上大きな売上を占める3大分類「雑誌」「コミック」「文庫」(全体ではこの3区分で売上全体の7割近く)、それに加えて「ビジネス」と、今回年は最大の下げ幅を計上した「文芸」の計5区分を抽出したのが次のグラフ。上記に挙げた「ビジネス街」と「近郊」の特性が良くわかる。

↑ 分類別・立地別売上高前年比(一部、2014年)
↑ 分類別・立地別売上高前年比(一部、2014年)

「文芸」は「郊外」が一番小さなマイナス率で留まっており、「コミック」も上記の通り「近郊」で唯一プラスに転じている。また「ビジネス街」では「コミック」のような回転率の高い分類、「文庫」のようなある程度のスケールメリットを活かせそうな分野で最大の下げ幅を示しており、「ビジネス街」における書店の足踏み感を再確認させられる。わずかに「ビジネス」で下げ幅を最小にとどめたのがせめてもの救いだが、それでもマイナス値には違いない。



本来ならすき間時間が多分に生じる就業者による来客がもっとも多い「ビジネス街」ですら、「雑誌」や「文庫」が売り上げを落とし、「ビジネス」も軟調な状況。時間的・可処分所得上の問題も幾分は影響しているのだろうが、やはりむしろすき間時間を埋めるツールとして、印刷物よりもスマートフォンを選ぶ人が増えたことが影響していると考えるのが無難な線。

スマートフォンなどの普及率上昇は今後もさらに進み、他の場所における書店でもさらに大きな影響を与えることは、想像するに難くない。


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※各グラフで最新年度以外の数字が表記されていませんが、これは資料提供側の指示によるものです。何卒ご理解ください
(C)日販 営業推進室 店舗サービスグループ「出版物販売額の実態2015」



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