6割近くが「厳しい」意識…生活意識の変化実情(最新)
2024/07/26 02:32
厚生労働省は2024年7月5日に同省公式サイト上で、令和5年版(2023年版)となる「国民生活基礎調査の概況」を発表した。今調査は国民生活の基本事項を調査し、各行政の企画や運用に必要な資料を収集する目的で行われているが、多彩な方面から日本の社会生活の実情を確認することができるものとなっている。今回はその中から「生活の苦しさ・ゆとりさの意識」に関して尋ねた結果をまとめ、生活感についての現状と過去からの推移を精査する(【発表ページ:令和5年 国民生活基礎調査の概況】)。
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今調査の調査要件および注意事項は、先行記事の【世帯平均人数は2.23人…平均世帯人数と世帯数の推移(最新)】にて説明している。そちらを参考のこと。なお2020年は新型コロナウイルス流行の影響で、調査そのものが実施されておらず、同年の値も存在しない。
今回対象とする「生活意識の状況」は「国民生活基礎調査の概況」内で毎年調査が行われている。これは生活意識について「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「たいへんゆとりがある」の5選択肢から1つを選んでもらい、その回答を集計したもの。その経年変化を記したのが次のグラフ。全体構成比の変化の他に、個々の項目の動きを把握しやすいよう、各項目毎の動向を記した折れ線グラフも併記する。
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(積み上げグラフ)
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(折れ線グラフ)
景気動向による「ぶれ」はいくぶんあるものの、中長期的に見ると一貫して「大変苦しい」単独、そしてそれと「やや苦しい」を合わせた「苦しい派」(赤系統色部分)が増加していた(「やや苦しい」は前世紀末から大きな変化は無し)。1993年の大幅増加はイレギュラー的な感が強いが(バブル景気が崩壊した時期と重なるため、そのための景況感悪化の可能性もある)、それ以外は2009年まで漸増、それ以降は数年にわたり大きな増加率を示しているのが確認できる。特に「大変苦しい」の回答者率が2011年にかけて大きく増えたのが目にとまる。同時に「ややゆとりがある」がわずかだが減っているのも分かる。
これが2007年夏以降に具象化した金融危機(サブプライムローンショックやリーマンショック)によるものか、あるいは政治的失策によるものかまでは、今件調査結果だけでは判断できない。ただし経済的には大きなマイナス面での変化をもたらしたリーマンショック以降に大きな増加が起きており、景況感に多分な連動性があることは容易に推測できる。
また2011年に大きく「苦しい派」が動き、2012年から2013年にかけて多少なりとも戻しているのは、2011年における震災の影響と、その反動によるものと考えられる。
さらに2014年は再び「大変苦しい」が増加し「ややゆとりがある」が減っている。これは消費税率引き上げが2014年4月に行われ、その直後の2014年7月に今項目の調査が実施されていることから、心理的な重圧感が多分に作用したものと考えられる。それ以降は景況感の変化を受け、「大変苦しい」は大きく減り、結果として「苦しい派」は減少。生活意識の変化傾向に大きな変化が起きている感はある。
直近の2023年ではここ数年の「苦しい派」減少から転じて、大きな増加が確認できる。これはロシアによるウクライナへの侵略戦争で生じた世界的な物価高から生じた、生活苦の認識によるものと思われる。日々の生活に欠かせない食品や、電気代・ガス代・ガソリン代などのインフラ関連の大幅な値上げは、生活苦を覚えさせる要素としては、十分なものに違いない。特に「大変苦しい」が前年比で6.3%ポイントも増加しているのは注目に値する。
いずれにせよ現実問題として、「いわゆる『一億総中流意識』はすでに過去のもの」「生活に苦しさを覚える人は6割近く」との結果には違いない。この現状は覚えておくべき。「中流意識は遠くになりにけり」である。
一方、他の調査、特に国際比較調査からも、日本人は他国の人と比べて自身への評価を低めに抑える、悲観的に考える方向性があるとの結論が出ていることを思い返すと、それを実感させる動きには違いない。
やや余談ではあるが、2023年における世帯種類別の割合は次の通り。母子世帯は対象世帯数が少数(41世帯)のため、統計上のぶれが生じている可能性があることを記しておく。
↑ 生活意識別世帯数の構成割合(世帯種類別)(2023年)
全世帯よりも高齢者世帯の方が「苦しい派」は少なめ、児童のいる世帯の方は多めとなっている。そして母子世帯の生活感の苦しさは注目に値する。あくまでも回答者の心理的な部分が多分にあるとはいえ、下側2項目の属性における傾向には、大いに留意を払い、状況改善の施策への優先順位を押し上げるべきだろう。
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