各国の固定電話と携帯電話の普及率推移(新興国編)(最新)
2024/02/12 02:40
国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)では【データ項目ページ(Statistics)】において、毎年1回のペースで同連合加盟国の携帯電話、インターネットなどの電気通信に関係する統計データを更新の上、公開している。これは諸外国の通信機器やインフラの普及浸透状態を概略的に把握できる貴重な資料であり、各種論文や分析でも用いられている。恐らく今データを基にした論文や解説文は、国内外を問わず一度ならずとも目にしているはずだ。今回はその中から、いくつかの新興国それぞれにおける、固定電話と携帯電話の普及率の推移を抽出し、状況の確認を行う。携帯電話についてはあくまでも携帯電話そのものであり、インターネット機能付きの端末のみに限定されないことに注意してほしい。
スポンサードリンク
「新興国」との言葉には色々な定義、見方がある。今記事では先行記事の【20年あまりにわたる携帯電話普及率推移(新興国編)(最新)】をベースとし、他の方面・分野でも参照対象となりそうな国、ロシア・インド・インドネシア・ブラジル・フィリピンにスポットライトを当てることにした。
なお今件データの「固定電話普及率」は、世帯ベースではなく個人ベースである(単純に契約数を人口で除算している)。普通一世帯に固定電話を複数台契約する状況はあまり想定できないことから、100%到達は困難な値であることを留意しておかねばならない。
それでは最初にロシア。
↑ 固定・携帯電話普及率(契約数/人口、ロシア)
類似主旨の先行記事【各国の固定電話と携帯電話の普及率推移(先進諸国編)】と比べると、元々の固定電話普及率が低いこと、2000年から1、2年は携帯電話の普及率があまり伸びていないのが印象的。そして固定電話の普及率もあまり変化せず、携帯電話が急激な伸びを示している。
これは各国の携帯電話普及率だけを集約した先の記事「20年あまりにわたる携帯電話普及率推移(新興国編)」で解説した、新興国の状況そのままである。そして2003年以降携帯電話の普及率上昇度合いは加速している(もっとも2011年で一度失速が見られる。これは先行記事で解説の通り、同年からロシアにおける契約者数のカウント方法をSIMカード関連で変更したからに他ならない。同国の携帯電話事情がダイナミックに変わったわけではない)。
携帯電話は他人との音声における情報のやり取りができるだけに限らない。SMSでのメッセージの相互交換、そしてマルチメディアフォンやスマートフォンのようにインターネットアクセス機能がある携帯電話なら、インターネットへの窓口となることを考えれば、この普及率の増加がロシアの社会にもたらした影響の大きさが改めて確認できる。
続いてインド。
↑ 固定・携帯電話普及率(契約数/人口、インド)
インドの携帯電話、モバイルインターネット事情は以前【モバイルインターネットの広がりをかいつまんでみる……インドと中国】で解説した通り。元々国土の広大さに加えて経済的な問題や地形の関係などから、電話系インフラの普及率は低いものだった。2000年当時の普及率は携帯電話で0.3%、固定電話でも3.1%でしかない。
それが固定電話は横ばいから漸減し、携帯電話は2005年あたりから急激に伸びを見せている。総務省のデータベース【「世界情報通信事情」のインドの項目】を見ると状況がある程度把握できるが、複数会社による競争の激化が、携帯電話普及率の向上に拍車をかけたと考えられる。
一方、2012年では携帯電話の普及率が減少を示している。これは人口が急増したからではなく、加入者数が急減したのが原因。具体的にはプリペイド式SIMカードのうち長期間利用が無く、新規入金もされていないものについて、回線を切断(契約破棄)の措置をとったため。収益率改善の動きの一環とされている。もっともその後再び増加を示し、2022年では80.6%に達している。ここ数年の携帯電話の普及率の漸減ぶりについては「2016年秋のリライアンス・ジオ・インフォコムの市場参入により競争が激化し、料金低廉化とともに、事業者の統廃合が進んだ」との説明がある。
次はインドネシア。
↑ 固定・携帯電話普及率(契約数/人口、インドネシア)
【モバイル大展開…ニールセンのレポートからインドネシアのネット事情をかいま見る】などで解説しているが、インドネシアは多くの島々で構成されている国土の構成上、固定系インフラの普及には困難が伴う。それでも固定電話の普及率は2010年にはピークとなる16.9%を示すほどとなったが、その後はおおよそ減少。他方、携帯電話の普及率の上昇度合いは加速度的な動きを見せているのが分かる。技術革新や競争激化によるサービス料の値下げ、サービスそのものの向上など、裏付けする材料には事欠かない。ただし2014年以降は伸び率はやや鈍化。どうやら天井が見えてきた感があった。ところが2016年には大きく跳ね、それは2017年でも続いた。2014年12月以降、大手各社がLTEサービスを開始していることや、国ベースで4G網の整備に力を入れているのが奏功したのだろう。
そして2018年には大きな失速。これは先行記事で説明の通り、2017年10月末からプリペイド式携帯電話の番号登録に関して規定が大幅に変更され、既存の利用者も再手続きが必要になり、住民登録番号にひもづけられた携帯電話番号の上限が基本的に3つまでに制限されたため。
次はブラジル。南米諸国ではBRICsの中で唯一含まれる国であり、日本との関係も深い。
↑ 固定・携帯電話普及率(契約数/人口、ブラジル)
ブラジルは2000年時点ではロシアに近い固定電話普及率を示している。一方で携帯電話はすでに1割超え。その後の伸び方は他国と比べるとやや緩やかなようにも見え、そして2014年をピークに値を落としているが、2022年時点では98.9%に達している。固定電話はほぼ横ばいで、2割前後を維持していたが、ここ数年では失速気味。
2015年以降の携帯電話の値の減少については、カウント方法が変わったとの説明は無いものの、「世界情報通信事情」によれば「スマートフォンの盗難が社会問題となっている。Anatelは2018年9月より違法端末の取締りを強化するプロジェクト「Cellular Legal」を実施しており、2018年12月以降、違法端末の通信を遮断する措置を実施している」とあり、これが影響しているものと考えられる(もっとも減少傾向はそれ以前から生じているが)。
最後にフィリピン。
↑ 固定・携帯電話普及率(契約数/人口、フィリピン)
伸び方のスタイルとしては、ブラジルやロシアよりは、インドネシアやインドに近い。固定電話の普及率は元々低く、時代を経てもさほど変化はない。一方で携帯電話の普及率はほぼ上昇を継続中。同国の情報伝達のスピード、そしてそれに伴う社会構造へ確実に変化を与えているのは間違いない。
興味深いのは携帯電話の普及率について、他国のように2003年や2005年のような「節目」が無く、ほぼ一様に上昇していること。インドネシア同様に島々で国が形成されていることもあり、携帯電話の必要性は昔から高かったものと考えられる。2019年にはイレギュラーな上昇ぶりを見せているが、原因は不明。恐らくは2019年2月にフィリピンで成立した「携帯サービスプロバイダーに携帯番号ポータブル制度の運用を求める法律」が影響しているものと思われる(【携帯番号ポータブル制度の2020年中の運用開始を求める、上院議員(ジェトロ)】)。
携帯電話の普及率においては、グラフの形を見ると一部では緩やかさを見せつつあるものの、多くの国ではさらに上昇する気配が感じられる。また、数字の上では判断ができないが、SMSのみの携帯電話からスマートフォンに切り替え、インターネットに「はじめの一歩」を踏み出す人も確実に増加する。
この流れが各国にどのような変化をもたらすのか。少なくとも各国国内はもちろん、世界に向けた情報のやり取りの窓口が大きく開いたことは間違いない。ビジネス様式や各国の社会情勢にも小さからぬ、そして確実な影響を与えることだろう。
■関連記事:
【世界中で減少する固定電話、増加する携帯電話…固定・携帯電話の普及率(2012年発表版)】
【携帯・PHSなど合わせて224.3%の普及率…総務省、2022年3月末時点の電話通信サービスの状況を発表(最新)】
【世界地域別インターネットの普及率など(最新)】
スポンサードリンク