直後はラジオと口コミ、そして地上波テレビと携帯電話…震災被災地のメディア評価の変遷(2012年版情報通信白書より)
2012/07/30 06:50
総務省では2012年7月17日に、【情報通信白書】の2012年版を公開した(【発表リリース】)。内容の多くはかつて【インターネット機器としてのモバイル機器とパソコンの所属世帯年収別利用率(2011年分データ反映版)】などでも記事にした「通信利用動向調査」の結果を元にしているが、その一方で色々な資料を元に、興味深いデータを多数収録している。今回はその中から、2011年の東日本大地震・震災(「本震」「震災」)における、被災地での情報需要と各メディアへの評価について見ていくことにする(【該当ページ:第1節 東日本大震災が情報行動に与えた影響(1)震災時に利用したメディアの評価】)。
スポンサードリンク
今調査は津波被害の甚大だった地域を中心に、岩手県、宮城県、福島県の3県、および「岩手県:宮古市、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市」「宮城県:気仙沼市、南三陸町、石巻市、仙台市、名取市」「福島県:南相馬市、いわき市」を対象としている。回答形式は直接インタビュー、一部フェースシートへの記入。有効回答数は309人(【調査方法解説ページ】。文中にもあるが一人が複数人分のインタビューの統括をしていた場合もあるため、各項目ではもう少し回答件数が増えていることもある)。なお調査母数が比較的少数のため、数字上の「ぶれ」が発生している可能性を考慮しておかねばならない。
本震発生後の各メディア・情報ツールの有益性・堅甲度などについては、各機関で各方面から検証が続けられている。それと実経験による情報も合わせ、利用者各自が結果に基づいた評価を下し、新たな選択をしている感は否めない。
今件では本震発生時、発生直後(発生後からしばらくのちまでの間)、そして本震から2か月ほどが経過し、それなりに情報インフラなどが回復を果たした2011年4月末までの状況下における、各メディアへの「評価」度合いを表している。
まずは本震発生時だが、各情報インフラの遮断、利用そのものが出来ない場合も多く、AM・FMラジオの評価がきわめて高いことが確認できる。
↑ 震災時利用メディアの評価(震災発生時)(被災地対象)
それと共に目立つのが「口コミ」。多くの情報ツールの利用が困難になった状況下では、最終的に口コミが有益な手段になりえる証といえる(同時に誤情報の流布のリスクも露呈しているが)。
これが本震直後となると、ラジオや口コミに加え、比較的復旧・利用可能状態への復帰が早かったテレビや携帯電話によるメディアへの評価が高まりを見せる。
↑ 震災時利用メディアの評価(震災直後)(被災地対象)
ただし各インターネットサービスへの評価の低さを見ると、「不特定多数に向けての情報発信を行う媒体としての」インターネット・携帯電話は評価に値せず、もっぱら特定の相手との情報交換ツールとして活用されていたことがうかがえる。また、「不特定多数向け」ツールとしてはラジオに加え、テレビへの評価が高まりを見せる(ただし今時点でもラジオより評価は下であり、震災直後の「マスメディア」としての評価はさほど高くなかったことを示唆している)。
そして各インフラがある程度整備され、本震直後の混乱がそれなりに収束してくると、メディアへの評価も大きな変化を見せる。
↑ 震災時利用メディアの評価(2011年4月末まで)(被災地対象)
行政機関そのものも本震直後の混乱から立ち直りを見せ、情報の配信を始めるようになると、それらサイトへの情報取得のためのアクセスが行われ、評価も受けるようになる。テレビでの情報配信も本格的に始まり、ラジオよりもテレビが良く用いられるようになる。一方で携帯電話・携帯メールの利用率・評価はさらに高まりを見せる。中には「テレビで情報を取得」「携帯で知人に伝達」という波及効果もあったのだろう。
白書側ではこれらの動き、特に4月末までの動向について、「地域性の高い情報を収集可能という観点で評価が高まる傾向がみられた」と評している。日本全土として、あるいは広域範囲全体としての詳細な情報と共に(マスメディアとしてはラジオ、そしてテレビへと移行する動きが見える)、自分がいる場所の身近な周辺地域の情報を渇望し、それが果たせるメディアへの期待が強いことがうかがえる。
やや気になるインターネット系のサービスについてだが、それのみを抽出して時系列順に再構築したのが次のグラフとなる。
↑ 震災時利用メディアの評価(インターネット・推移)(被災地対象)
上記にある通り発信元の混乱が収束するにつれ、各大規模機関のサイトへの評価(≒利用頻度の高さ、有益性)は増してくるが、ソーシャル系のサービスは押しなべて低いまま。かろうじて動画共有サイトが高めの値を示しているのみ。
これについて白書側ではツイッターを例に挙げ、「利用している人は有益な情報ツールとして活用した」「しかし被災地では使用している人はほとんどおらず、当然『現地情報』も掲載されることが少ないので、未使用者だけでなく使用者でも有効に活用しきれなかった」と解説している。ツールそのものが便利でも、使用者が少なければ有益な情報の共有数は少なくなるという、ソーシャルメディアならではの特性がマイナスに働いた事例といえよう。
■関連記事:
【地震情報で見直される「ラジオ」、評価を受ける「ソーシャルメディア」、そして……】
スポンサードリンク