上場企業の「外国人」持ち株比率の変化(2011年度反映版)
2012/07/21 06:50


スポンサードリンク
データの大本は東京証券取引所による【株式分布状況調査】で掲載されている、「長期統計」データ。このデータ中、「投資部門別株式保有比率の推移」を抽出するのが前回の手法だったわけだが、記事執筆時点ではまだ2010年度(去年発表分)のものが最新データのまま。
そこで同一ページを探ってみると、ページ上部に2012年6月20日付で「平成23年度株式分布状況調査の調査結果について」という概要レポートが収録されている。中を見ると今回のグラフの各項目に該当するデータを確認できた。早速それをも用い、先の記事と同じような区分で仕切り直し、グラフ化したのが次の図。なおタイトルでは「5証券取引所-」とあるが、JASDAQが大証と合併したため、2004年度以降はJASDAQも含めた値となっている。

↑ 持ち株数比率推移(5証券取引所合計、%)
1980年度前半に一度上昇を見せた外国人投資家の比率だが、その後低下傾向を見せ、1990年前半以降は再びじわじわと上昇。特に2000年前後を境に(一度ITバブル崩壊でやや下げ基調を見せるも)大きく伸びを見せている。一方で事業法人や金融機関・証券会社などは持ち合い解消などの流れを受けて2000年前後から大きく比率を減じている。2008年度は金融危機の関係で大きく値を下げてはいるが、その後再び持ち直しの動きを見せる。
また個人の動きをみると、1970年後半から急速な減少。そして1980年後半からは横ばい。1990年後半からは「貯蓄から投資へ」の動きを受けてやや盛り返しの雰囲気があったが、投資先の多様化などもあり、再び下落。2008年度は株価低迷で買い増しでもしたのか、やや比率を上げている。その後はほぼ横ばいの動き。
これらの流れから、以前の記事【日銀レポートによる「なぜ好景気でも賃金は上がらなかったのか」】で解説した、「上場企業における外国人投資家の影響力増加と共に、『利益の従業員への還元より株主への還元を優先しろという』圧力が強まり、企業の利益が積み上げられても従業員の手取りには反映されなかったのではないか」とする日銀の推測の「一つ」(※)が半ば裏付けられたともいえる。この15年ほどの動きをみると、「株式数比率」の観点で見ても影響力は2倍強にまで拡大しており、たとえ外国人投資家全員が頑なに配当重視を声高に訴えるだけではないとしても、「声出さぬプレッシャー」は存在しうる。
※「利益」と「還元、配当」との関係を示す全事由では無い。前回の記事ではこの部分だけを読み解いて「外国人投資家の存在が企業の利益還元の鈍さのすべての原因」と誤読している向きがあったので、あえて書き記しておく。むしろ将来に備えた、企業の大原則「ゴーイングコンサーン」(企業は永遠に事業を継続し、廃業・整理・倒産などをしないという前提)を確保するための「備え」の積み増しと考えられる。先の東日本大地震・震災において、大企業がその蓄えを用いたのが好例である。
●直近の動向を探る
今回作成したグラフの直近2年間における変移を計算したのが次の図。外国人投資家はその比率を大きく下げ、事業法人などが積み増している。

↑ 持ち株数比率推移(5証券取引所合計、%、2010年度から2011年度への変移)
前回の記事での同様のグラフ(2008年度から2009年度)とは大きな違いではある。円高が進んだことなどによるポートフォリオの調整から日本株を売る動きがあり、それを事業法人や個人が拾っている、というところだろう。
最後に、前回の記事で一部要望のあった、今世紀度に入ってからのグラフ生成もしておく。

↑ 持ち株数比率推移(5証券取引所合計、%)(2001年度-2011年度)
金融危機の影響が直接見られる2008年度以降、各項目に大きな動きが生じているのが分かる。とはいえ、外国人の持ち株数比率は2010年度までにはほぼ金融危機以前の水準にまで復帰、金融機関や証券会社などが減らした分を、個人が拾っているような形となっている。
もっとも昨今では市場取引そのものの低迷により、東京市場の出来高も数年前と比べれば二分の一、三分の一にまで低下。投資環境に連なる規制の強化も合わせ、個人が今まで以上に所有比率を増やす動きは期待しにくい。あと5ポイントほどでも上昇してくれれば、市場の動きにも少なからぬ変化が見られるかもしれないのだが。
スポンサードリンク
