日米安保のアメリカ合衆国側評価は有識者79%・一般人72%(最新)
2024/04/18 02:44
外務省は2024年3月15日付で、アメリカ合衆国における対日世論調査の結果を発表した。その内容によれば調査対象母集団では日米安全保障条約(日米安保)に対し、一般人は72%、有識者は79%の人が維持すべきだと考えていることが分かった。また日米安保が日本・東アジアの平和・安定へ貢献していると考えている人は有識者で91%、アメリカ合衆国自身の安全保障にとっても重要と考えている人の割合は有識者で93%の値を示している(【発表リリース:令和4年度海外対日世論調査】)。
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有識者の方が高い「安保」維持への支持
調査概要に関しては先行記事【アメリカ合衆国の日本への一般人信頼度73%・有識者は88%に(最新)】を参考のこと。
現在において日本の安全(国防、軍事的な国の保安を中心とした「安全」)は、自衛隊、そして日米安全保障条約に基づいた安全保障体制の二本柱で守られている。このうち日米安保について、アメリカ合衆国側がこのまま維持すべきか、そうすべきでないのかを聞いた結果が次のグラフ。2008年度に一般人の意見でやや凹みが確認できるが(これは2008年度に行われた大統領選挙において、オバマ元大統領を推す民主党が日本からやや距離を置く政策を取ったのが遠因と考えられる)、一般人はおおよそ漸増、有識者は8割後半から9割台の高水準で「維持すべき」と肯定的意見を持っていたのが分かる。
↑ 日米安全保障条約の維持について(「維持すべき」「そうは思わない」「分からない」のうち「維持すべき」の回答者)
ところが2013年度分では一般人の肯定者が前年度比で22%ポイント、有識者の肯定者が前年度比で16%ポイントと大幅な下落を示しており、データが残っている1996年度以降においては一般人・有識者ともに最低の値となってしまった。また、2013年度分のデータを精査すると、その前年2012年度から「維持すべき」で減った分のほとんどが、「分からない」に流れていることが確認できる。
この下落については2008年度の時のような特段の理由も想定できない(日本におけるオスプレイに関する過剰な否定的報道がアメリカ合衆国側の反発を誘った可能性はゼロではないが、その程度でここまで下がるような情勢には見えない)。後述するが、多分にイレギュラー的なところがあったと見た方が道理は通る。
2014年度以降は一般人・有識者ともに、株式市場における半戻し的な状況を呈した。戻した部分の多くが「分からない」の減少で補われている。同時に「そうは思わない」、つまり安保維持に反対する意見は調査開始以来一貫して1ケタ台のままなことに留意しておく必要はあろう。しかしその後一般人は再び比較的低い水準で推移するようになってしまった。
直近年度の2023年度では有識者は79%となり前年度から11%ポイント下げ、一般人は72%と前年度から2%ポイント上げたものの、有識者と比べれば低い水準を維持。先行する複数の記事で指摘しているが、今年度の有識者の回答については、今設問に限らず多くの設問で有識者の対日感情だけでなく対韓・対オーストラリアの感情悪化とともに、中国とインドに対する急激な良好化が確認できる。設問そのものや調査対象母集団の選び方に違いはないことから、回答票に何か変化があった可能性はあるが、それを確認することはかなわない。
また今設問に限らず2017年度以降の回答では、複数の設問で一般人の回答値において大きな減少が生じている。対日本だけならばアメリカ合衆国の一般人における日本離れが起きた結果かもしれないが、他の諸外国への認識でも同様の傾向が見られることから、2017年度以降においてそれまでと比べ、設問の様式に何か変化が生じた可能性の方は高い。有識者では同じようなイレギュラー的な現象は(直近年度以外では)生じていないことも併せ、2017年度以降の一般人の回答動向に関しては、慎重に判断をする必要がある。
日米安保はアジア、そして米国自身に貢献しているか
ではその日米安保は、日本と東アジアの平和と安定へ寄与貢献しているものなのか否か。軍事的、戦略的、政略的な現実問題の上での判定は別として、「貢献している」と認識・判断をしている人の割合は次の通り。なお今設問と次の設問に関しては、2020年度以降では一般人に対しての問いは無い。有識者は2023年度が直近分だが、一般人は2019年度分が最新の値となっている。
↑ 日米安全保障条約は日本と東アジアの平和と安定へ貢献しているか(「非常に貢献している」「ある程度貢献している」「わずかしか貢献していない」「まったく貢献していない」「意見無し」のうち「非常に貢献している」「ある程度貢献している」の回答者合計)
有識者は高い値で安定、一般人は2008年度の大統領選時に多少の凹みを見せるも全般的には漸増傾向を示している。ここ10年ぐらいは80%内外でもみ合いの流れとも読める。一般人の方が選挙運動で心境を左右されやすいとの点でも注目するべき内容だが、ともあれ直近データでは一般人81%・有識者91%が「日米安保は日本と極東の平和と安定へ貢献している」と評価をしていることが確認できる。一般人の2008年度における急落は、上記の通り大統領選挙に絡んだ動きの可能性が高い。
最後に、日米安保が日本や東アジアではなく「アメリカ合衆国自身の」安全保障にとって重要か否かの問題。これは日本サイドでも気になる項目だが、結果としては直近で9割台の人から「重要視している」との回答が得られた。
↑ 日米安全保障条約はアメリカ合衆国自身の安全保障にとって重要か(「極めて重要」「ある程度重要」「あまり重要でない」「まったく重要でない」「分からない」のうち「極めて重要」「ある程度重要」の回答者合計)
興味深いのは、この点、つまり日米安保におけるアメリカ合衆国への直接的な利益との観点では、一般人も有識者もさほど変わりないレベルで高評価を与えている点(一般人は2019年度までの値しかないが)。これをどのように解釈するかは人それぞれだが、少なくとも【「安保は日本の平和と安全に役立つ」9割近く(最新)】と併せて考えれば、日米安保はお互いにとって重要度が高いという認識が、一般レベルでは浸透していると考えて問題はなさそうだ。
2013年度分のデータの「安保維持」の項目で「支持」の値が急落し、「分からない」がその分急増している、そして2014年度以降でも半ば程度の回復にとどまっている件に関する補足をしておく。先行記事【アメリカ合衆国から見た一般の日米協力・相互理解関係の推移(最新)】で詳しく解説している通り、今調査では2013年度以降において、2012年度までとは結果の項目こそ変わりはないものの、複数面で異なる手法・様式が用いられている。2012年度までの動きとは明らかに挙動が異なり、原因がつかめない値が出た項目にでは、連続性に疑問符が生じると評しても無理はない。
とはいえ調査様式の変更後にあたる2013年度以降を見ても、少なくとも一般人において日米安保に対する関心がいくぶん薄れている動きは否定できない。他項目の動向を併せ見るに、あるいは安保に限らず、全体としての興味関心の薄れの流れか出ているのかもしれない。
他方2017年度以降の一部項目の値の急落は、設問そのものに変化が生じた可能性は多分にある。以前同様の現象に対する外務省への問い合わせで、調査会社のニールセンからは回答値しか受け取っておらず、設問の類は手元に無いとのこと。過去の調査も合わせ、質問票の類の比較検証が不可能なのは残念に違いない。
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