アメリカ合衆国から見た一般の日米協力・相互理解関係の推移(最新)
2020/04/15 05:26
外務省は2020年3月18日に同省の公式サイトにおいて、アメリカ合衆国における対日世論調査の結果を公開した。その内容によれば調査対象母集団においては、2019年度時点で一般的な日米協力関係の状態・現状に対し、「良好」「極めて良好」の評価をした人は一般人で63%・有識者で67%に達していることが分かった。また日米両国民の相互理解度では、1990年度代以降は上昇傾向にあるが、2013年度以降に一時的な下落傾向があったことが示されている(【発表リリース:平成30年度海外対日世論調査】)。
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調査概要については先行記事【アメリカ合衆国の日本への一般人信頼度85%・有識者は89%に(最新)】を参考のこと。
まずは日米の協力関係において、軍事や政治などに限定せず、一般的にどのような評価を下しているかとの質問。「極めて良好」「良好」「普通」「よくない」「分からない・回答拒否」のうち、ポジティブな意見である「極めて良好」「良好」双方を足した値の推移をグラフ化したのが次の図。有識者は1992年度から質問を設定しているため、答えもそれ以降のものとなっている。
↑ 日米協力関係一般への評価(「極めて良好」「良好」「普通」「よくない」「分からない・回答拒否」のうち、「極めて良好」「良好」の回答者合計)
有識者の方が一般人の10-20%ポイント程度の上乗せをしていたが、上昇の仕方は双方で変わりが無い。有識者の計測を始めた1992年度以降、一貫して上昇傾向を見せていた。一般的な協力関係については良好であるとの認識を持っていると考えてよかった。
ところが2013年度になると、一般人では前年度から22%ポイントと大きな下落が確認できる。有識者では2014年度に同じような動きが生じている。詳細を見るに、その分「普通」の回答者が増えているのだが、この一年で日米協力関係に劇的なマイナス要因となる事態が起きたとも思えず、また仮に震災関連の反動だとしても、その勢いが大きすぎる。後述するが、調査上の問題があったと考えた方が道理は通る。そして2014年度以降は少しずつだが持ち直しを見せ、同時に一般人と有識者との間の差があまり無い状態となっている。
直近年度では一般人の値は前年度から7%ポイントの下落、有識者は2%の下落。
一方、国全体も含めた包括的なものではなく、国民の視線に降りた形で、両国国民における相互理解度をどのように認識しているかを聞いたのが次のグラフ。「普通」との回答が多いこともあり、「よく理解し合っている」の割合は先の「協力関係一般」と比べれば低い。
↑ 日米両国民の相互理解度(「よく理解し合っている」「普通」「そうは思わない」「分からない」のうち「よく理解し合っている」の回答者)
こちらも1990年代前半以降漸増傾向に違いは無い。そして2013年度以降の減少の動きとその後の回復ぶりも「協力関係一般」と同じ流れ。
直近年度では一般人の値は2%ポイントの上昇だが、有識者は実に12%ポイントも増加し、過去最大値を記録する結果となった。前年度では「普通」が59%だったのが直近年度では47%と12%ポイントも減少しており、実質的に「普通」の回答者がそのまま「よく理解し合っている」にシフトした形となっている。
今件はあくまでも日本全体・包括的な日本そのものについて言及していることに注意する必要がある。他の項目では一部影響が及んでいるのも確認できるが(例えばある項目では、2008年度のアメリカ合衆国大統領選挙前後に、日本への傾注度が落ちている動きが確認できる)、少なくとも今項目では各調査時期の両国の政権政党や基本政策は、影響を与えていないと見てよい。
また今件項目だけを見ると2013年度以降において日米関係が国民ベースで悪化していたようにも思われるが、その一方で「日米関係は今後どうあるべきと考えるか」との設問においては、「より緊密にすべき」の回答率は高いままで、「より緊密にすべきでない」は数%に留まっている。
↑ 日米関係は今後どうあるべきと考えるか(一般人)
↑ 日米関係は今後どうあるべきと考えるか(有識者)
直近年度では一般人の56%、有識者では66%が「日米関係は今後より緊密にすべき」と考えている。「より緊密にすべきでない」との意見はそれぞれ9%・1%に留まっている。一般人の「より緊密にすべきでない」が9%とやや大きめなのが気になるところか。
先行記事【日本が一番中国二番…アメリカ合衆国のアジア地域諸国に対するパートナー意識の重要度推移】の文末で詳しく解説しているが、2013年度分以降の調査は従来のガートナー社からハリス・インタラクティブ社、そしてハリス社を買収したニールセン社(調査の直接担当は元ハリス社の部局のようで、2015年度分では調査会社はハリス社となっていた)に調査依頼会社を変更している。これは2013年度の依頼時にガートナー社で不祥事疑惑が持ち上がったからとのこと。また質問様式や調査対象母集団層など(表面上はともかく内情的に)変化が生じている可能性は高く、実際いくつかの面でそれが事実であることが確認されている。一方で2019年度では調査会社は再びハリス社となっているが、ハリス社自身は2017年1月にスタッグウェルグループ(The Stagwell Group)によってニールセン社から買収されており、現在ではスタッグウェルグループの一員となり、社名もハリスインサイト&アナリティクス(Harris Insights&Analytics)と改められている。調査結果や質問様式を見る限り、2018年度分までとの違いはないように見える。
例えばPew Research Center社のように調査要項の詳細(methodology)が記載されていればある程度状況を推し量れるのだが、それについては外務省側でも把握はしていないとの回答を得ている。先行分析記事でも、特に一般人の項目で2012年度までと2013年度以降との間における、イレギュラーと思われる値をいくつか見つけることができる。また、結果を算出する際のカウント方法が変わっているため、突出した結果が出ている項目事例もある。
特段変わった重大事件・外交問題が日米間で起きておらず、また対日批判の動きが急速に高まったという話も聞かず、他の調査機関の調査結果でもそのような兆しは見受けられない。2012年度分までとそれ以降の動向との比較において、慎重にその内容を判断した方が望ましいとの断りを入れておく。
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