「この本読みたい」その時、買う? 借りる? 米講読時調達手段
2012/05/01 12:10
アメリカの調査機関【Pew Research Center】は2012年4月4日、電子書籍を中心に、アメリカの読書性向に関する調査報告書【The Rise of E-Reading】を発表した。モバイル端末、特に電子書籍リーダーの登場・普及で大きな変化をとげている、アメリカの読書の現状をかいまみられる貴重なデータが、多数盛り込まれている。今回はその中から「書籍を買うか、借りるなどして済ませるか」にチェックを入れることにする。
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今調査は16歳以上のアメリカ合衆国国内に住む人を対象とし、2011年11月16日から12月21日にかけて、RDD方式で抽出された電話番号に対し、電話による音声インタビュー形式で英語及びスペイン語で行われたもので、有効回答数は2986人。対象電話は固定電話が1526人、携帯電話が1460人(そのうち固定電話非保有者は677人)。国勢調査結果に基づくウェイトバックが行われている。また今調査全体のうち一部項目では同様の調査スタイルながらも「18歳以上」「2012年1月20日から2月19日」「有効回答数は2253人」による(より現在に近い)取得データを用いたものもある。こちらを用いている場合は逐次その旨言及する。
【去年の年末年始に大上昇…米電子書籍リーダーの保有率推移の詳細】などで触れているが、電子書籍リーダーの普及率は2割近くに達している。
↑ 電子書籍リーダー保有率(各属性内、米)(再録)
また【全体約3割、50歳で生じる大きなギャップ…米電子書籍購読者の割合】で解説しているように、専用ツールの保有の有無を問わず、電子書籍を読んでいる人は3割近くに達している。
↑ 過去1年間に電子書籍を読んだ人の割合(米、2012年1-2月、18歳以上、各属性内比率)(再録)
少なからぬ人が読書の様式として電子書籍を選択肢としているのが分かる。それではそれぞれのスタイルで書籍を読みたくなった場合、その書籍を購入するタチだろうか、それとも借りて済ませてしまうだろうか。個々のスタイルを利用して読書する人に聞いた結果が次のグラフ。
↑ 書籍を読みたいと思った時、「購入」「図書館などから借りる」どちらを選ぶか(米、2011年11-12月、16歳以上)
紙媒体での書籍を購読する場合、自分自身の所有物になるよう購入することを好む、通常行っている人は54%。他人から借りて済ませてしまうことが多い人は38%。一方、電子書籍で購読する場合、「購入する」人は61%に登っている。紙媒体での購入率より7ポイントも高い。
詳しくは別の機会で触れることにするが、電子書籍の場合は安価で購入できる他に「読みたい」と思ったその時点で購読できるのが大きい。「読みたい」という衝動さめやらぬ間にその書籍そのものを手に入れ、しかも紙媒体のより安い(場合が多い)。品切れも原則無し。本好きならば夢のような世界ですらある。(詳細データの公開がないのでグラフ化はできないが、)もちろん自前の電子書籍リーダーやタブレット機を所有している人の方が、より一層「購入する」率は高い。
また、それらのハード所有者は電子書籍だけでなく、紙媒体の書籍でも、非保有者と比べて「購入する」率が高いとのこと。要は「電子書籍リーダーなどの保有者が本好きとなり、電子書籍を借りずに購入する率が高くなる」というよりは、「本好きが電子書籍リーダーなども手に入れ、紙の書籍・電子書籍を問わず、借りるのではなく買いたくなる」と見た方がつじつまは合う。
これが顕著に表れているのが次のグラフ。まず全般的に「最後に読んだ書籍の調達手法」を聞いたものだが、購入者は5割近く、残りは借りるが4割ほど。
↑ 最後に読んだ「書籍」(電子書籍含む)はどのようにして手にしたか(米、2011年11-12月、16歳以上、過去1年の読書経験者)
これを電子書籍リーダーやタブレット機保有の是非別で区分して再集計したのが次のグラフ。電子書籍を読める環境を手元に持つ人の方が、書籍の購入率は高い。
↑ 最後に読んだ「書籍」(電子書籍含む)はどのようにして手にしたか(電子書籍リーダーやタブレット機の保有状況別)(米、2011年11-12月、16歳以上)(過去1年の読書経験者)
もちろんこれは紙媒体だけでなく電子書籍でも「最後に読んだ書籍」となりうるため、購読ハードルが低い電子書籍を最後に購読した人が「買った」と回答している率が高いだけ、と見ることもできる。しかし紙であろうとデジタルであろうと書籍には違いなく、対価を支払って手に入れたのならば立派な購入に他ならない。
割引率が高い、電子書籍は所詮霞のようなもの、売れた実感が沸きにくい、買い手が所有感の実態を感じとれないなど、売り手・書き手からは電子書籍に引け腰の意見を耳にすることも少なくない。一方、今件のように割り切ってしまえば、電子書籍は紙媒体以上のセールス(少なくとも冊数カウント)を確保できる可能性がある。
今件はあくまでもアメリカの一例だが、今後日本でも同様の問題が生じることは容易に想像がつく。検証用の数字として覚えておくとよいだろう。
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