メディア別の音楽配信売上の関係(最新)
2022/04/09 02:54
日本における個人向け音楽配信は従来型携帯電話(フィーチャーフォン)への「着うた」「着メロ」の配信事業で一気に花開いた感がある。そしてそれは携帯電話の普及形態の変化、具体的には従来型携帯電話からスマートフォンへのシフトに伴い、さらにはスマートフォンにおける利用形態の変化に連れ、大きな変容を遂げている。今回は日本レコード協会が2022年3月25日に発表した音楽業界に関する白書「日本のレコード産業2022」を基に、「着うた」「着メロ」のような従来型携帯電話向けの音源による「モバイル部門」、そしてスマートフォン向けやパソコン向けなどが主になる「インターネット部門(パソコン・スマートフォン部門)」などから構成される、音楽配信の「売上」実績、そして両部門の関係の変化をグラフ化し、状況の精査を行う(【発表リリース:「日本のレコード産業2022」を発行】)。
スポンサードリンク
直近データが開示された2021年分の音楽業界は先日【音楽配信は成長続くが音楽ソフトは縮小…音楽CD・有料音楽配信の売上動向(最新)】で記した通り、物理メディアの売上から構成される「音楽ソフト部門」は増加、従来型携帯電話向け・スマートフォン向けなどの音源配信で構成される「音楽配信部門」はストリーミング方面を中心に大きく飛躍したものの、結果として総売上は前年比でマイナスを示す形となった。
↑ 音楽ソフト・音楽配信の売上(億円)(再録)
それではそれらの音楽配信の売上はどのような金額推移を見せているのか。そのメディア別区分となる「パソコン・スマートフォン部門」「モバイル部門(従来型携帯電話)」「その他(着信ボイス、着メロ、壁紙、アプリなど。機種が特定されていないので別扱い)」における変化をグラフ化したのが次の図。さらに各項目の音楽配信の売上全体に対するシェア推移もグラフにした。
なお2017年分からは区分が多少変更されているが、ストリーミング系の売上はすべてパソコン・スマートフォン部門に合算している。2016年分まではストリーミング系のうち広告収入が「その他」としてカウントされていたようで、2016年分から2017年分にかけて、「その他」が不自然な減少を示している。
↑ 音楽配信売上実績(メディア別、億円)
↑ 音楽配信売上実績(音楽配信売上全体に対するシェア、メディア別)
「Q1」「Q2」の「Q」とは「Quarter」、つまり「四半期」を意味する。例えば「Q1」ならば第1四半期、つまり1月から3月を表す。上記グラフから分かることを箇条書きにすると次の通りとなる。
・全体の成長率は鈍化。そして2010年で明らかに縮小方向に転じた(前年同期比が100%を割っている)。さらに減少具合は加速化。2013年頭を底とし、2014年以降は少しながらも増加に転じる。2015年Q4以降は毎四半期で前年同期の増加率が1割超えを記録。これは多分にサブスクリプションの成長によるもの。
・2010年前後から「モバイル減少」「パソコン・スマートフォン漸増」の傾向が見え、2011年以降は加速度的にその動きを進めている。
・2012年に入ってから、「パソコン・スマートフォン部門」の売上シェアは急上昇を続けている。この動きがそのまま進み、2013年Q1には「モバイル部門」「パソコン・スマートフォン部門」の間における売上面での立ち位置が逆転した。
パソコン・スマートフォン部門の額面上の動きを精査すると、2005年の第2四半期から急速な伸びを見せている。これは2005年8月にアップル社のインターネット音楽配信サービス「iTunes」がスタートしたのが原因。当時はまだモバイル部門と比べると額は少ないものの、その上昇ぶりは見逃せない。
また2012年では2011年に続き、パソコン・スマートフォン部門が大きく伸びている。この動きの最大の理由は、スマートフォンやタブレット型端末利用者の急増に伴う、iTunesStoreに代表される音楽データスタンド(ポータルサイト)の需要拡大が大きな要因(iTunes Storeの売上が今件データに反映されていることは日本レコード協会に確認済み)。
一方でパソコン・スマートフォン部門へ注目と資金が集まる過程で、「旧来メディア(今件ではモバイル部門)の減少分を、新規メディア(パソコン・スマートフォン部門)の増加分でまかないきれない」「全体額は漸減する」との図式が確認できる。これはメディアの移行期・過渡期にはよく見られる現象。
2014年以降は全体額の前年同期比がプラスに転じているが、これはパソコン・スマートフォン部門のストリーミングの増加によるところが大きい。【有料音楽配信販売数と売上動向】でも指摘しているが、音楽の聴取スタイル性向が、いわゆる「音楽聴き放題サービス」(例えばAWA、Apple Music、Google Play Music、LINE MUSICなど)にシフトしつつある状況をうかがわせる。見方を変えれば、「単品特定指名買い」から「バスケット買い」に趣向が変化しつつあると見なすことができる。モバイル部門、つまり従来型携帯電話ではこの様式による販売がほとんど無いため全体額もほぼ同額(2017年分からは公開資料におけるカウントそのものが無くなった)だが、パソコン・スマートフォン部門ではその少なからずがストリーミングによるものとなっている。また2017年分から新規区分でカウントされるようになった、ストリーミング系のうちサブスクリプション方式(期間限定の使用権や、サポート受理権利による売上)ではなく、無料で公開して広告からの収入で間接的に売上を得るタイプの広告収入も大きな成長を示している。
↑ 音楽配信売上実績(ストリーミング系、メディア別、億円)
現状では売上においてアラカルト方式(特定楽曲の買い)の成長分をストリーミング方式が吸収するように見える構図となっているが、今後さらにストリーミング方式が成長を続けた場合、有料音楽配信業界全体の販売、そして収益、さらには音楽業界全体そのものにも大きな変化が生じる感は否めない。よほどの購入動機の生じる楽曲でない限り、ストリーミング方式側に収録されていなければ楽曲そのものに手を出さないとの選択を行う音楽ユーザーが(今後さらに)増える可能性は十分あり得るからだ。極論としては、ある程度自分の選択が可能な有線放送的な音楽視聴スタイルで満足してしまう形である。
直近となる2021年通年では、パソコン・スマートフォンを合わせて884.59億円、そのうちストリーミングによる売上は743.80億円(そのうち広告収入は76.97億円)。
「有料音楽配信市場は再編期にある」。これは上にある通り、各種データが証明している。その機能のシンプルさに対する需要が一定量存在することから、携帯電話市場で従来型携帯電話(フィーチャーフォン)が無くなることはありえず、従って有料音楽配信市場でもモバイル部門が消滅することは無い。しかし今後スマートフォンのシェアはさらに拡大し、利用台数が増え、同時に従来型携帯電話のシェアは削られていく。利用者が少なくなれば採算性の問題から新譜を提供する事業者も減り、市場はますます縮小する。
さらに高音質の音源が多数ストックできる環境は、「手持ちの音楽でお腹一杯」な状況を生み出し、新規の曲購入へのハードルを高め、新譜の品質の変化とともに、単品買いからまとめ買いへの需要変化をも生み出している。以前「2013年はモバイルからパソコン・スマートフォンへの転換点の年となるはずだ」と言及したが、同時に視聴スタイルの変化に伴う「単品から聴き放題への視聴スタイルの変化」を予見させる年としても、後に記憶される年となるに違いない。直近2021年のデータはその裏付けの確定的な動きを示したと表現できよう。
※2022年分の公開データから、モバイルとパソコン・スマートフォンの分類がなくなったため、今件記事の更新は2021年分で終了となります。
■関連記事:
【無料聴取層が増える…年齢階層別の「音楽との付き合い方」(最新)】
【一般携帯からスマホへの乗り換え希望派・継続利用派で大きく異なる、使用料金やパケット定額制の契約状況】
【携帯電話の買い替えをした世帯の割合(最新)】
スポンサードリンク