売上面を中心にアメリカのデジタルニュース事情

2012/03/29 06:45

このエントリーをはてなブックマークに追加
新聞広告アメリカの調査機関【Pew Research Center】は2012年3月19日、デジタル・非デジタル双方におけるアメリカでのニュースメディアの動向と展望に関するレポート【State of the News Media 2012】を発表した。現状と将来展望をPew Research社の調査結果と公的情報や他調査機関のデータを合わせてまとめ上げた「米デジタルニュース白書」のようなもので、貴重なデータが数多く盛り込まれている。そこで先日から【タブレット機でニュースを読む人は約1割…アメリカのニュース取得状況】のように、気になる要項について抽出やグラフの再構築などを逐次行い、現状を少しでも把握すると共に、今後の記事展開の資料構築も兼ねるようにしている。今回は売上面(≒広告面)を中心に、デジタル世界でのニュース事情についていくつか内容をかいつまんでみることにする。



スポンサードリンク


今レポートは大きく「公的機関など他機関の調査結果」と「Pew Research Centerの調査結果」(いずれもアメリカ国内)で構成されている。後者については2012年1月12-15日・19-22日・26-29日にかけて、RDD方式で選ばれた番号による電話による口頭調査で、英語にて18歳以上に対して行われたもので、有効回答数は3016人。そのうち1809人は固定電話で、1207人は携帯電話で回答している。携帯電話回答者のうち605人は固定電話を保有していなかった。また調査結果は2011年3月時点の国勢調査結果によるウェイトバックがかけられている。

まずはモバイル端末(一般携帯、スマートフォン、タブレット機など)からのアクセスが、各新聞社公式サイトでどの程度の比重を占めているかについて。パソコンからのアクセス量(トラフィック量)に対する比率だが、現時点では1割前後という値が出ている。パソコンによるトラフィックを10としたら、モバイルは1前後という意味。

↑ 主要新聞公式サイトにおける、モバイル端末からのトラフィック量(対PC比)(米、2012年)
↑ 主要新聞公式サイトにおける、モバイル端末からのトラフィック量(対PC比)(米、2012年)

【タブレット機は魔法のツール…米タブレット機利用者のニュース購読上の変化】でも触れているが、「新聞やパソコンで読むのを止めて、代わりにスマートフォンやタブレット機で”のみ”ニュースを読む」スタイルよりは「モバイル機”でも”ニュースを読む」スタイルに変わる人が多く、この「モバイル端末からのトラフィック量」の多分は純粋に「ニュース購読ボリュームの増大」ととらえられる。これはメディア側にしてみれば嬉しいお話。

先日【ニュースとソーシャルメディアの関係】で解説したように、ソーシャルメディア(Facebookやツイッター)経由でのニュース取得・購読は、「ニュースを読む」という手法上ではまだ少数派ではあるが、さまざまな「気付き」を与えてくれるだけでなく、絶対的な利用者の多さ・視聴時間の長さから、小さからぬ影響力を持ち始めている。

↑ 各主要ソーシャルメディア利用者における月当たり平均消費時間(米、2011年12月)(分)
↑ 各主要ソーシャルメディア利用者における月当たり平均消費時間(米、2011年12月)(分)

またFacebookなどの主要ソーシャルメディア側でも、多種多様なアプリを提供し、ニュースとの親和性をさらに高める工夫をはじめている。読者やニュース提供側の需要、便宜性を高めて「より長い時間」「より多い機会」アクセスするための仕組みで(例えば「貴方の友達はこのようなニュースに興味を持っています」「今、このニュースが話題です」など)、まさに「デジタル・ポータル化」ともいえる。

一方、「デジタル・ポータル化」を狙うソーシャルメディアや元々ポータルのサイト達によるオンライン上の広告ビジネスは活況を見せている。技術の進歩、利用者と利用時間の拡大、そして広告出稿者の増加。規模はますます拡大しているが、同時に寡占状態も進んでいる。

↑ 大手5社などのオンライン広告売上(億ドル)(予想含む)
↑ 大手5社などのオンライン広告売上(億ドル)(予想含む)

↑ 大手5社などのオンライン広告売上(シェア)(予想含む)
↑ 大手5社などのオンライン広告売上(シェア)(予想含む)

この寡占状態の進行についてレポートでは「大きな規模を持つサービスほど、大量のデータをストックして分析し、より多くの需要に応える形で、より精度の高い切り口で広告を展開でき、結果的により良い成果を広告主に提示できるから」とし、いわゆるスケールメリットの結果であると説明している。

デジタル上で配信を行うニュースメディアには重要な収入源となるオンライン広告そのものについては、多種多様化、特にメディアやネット環境の整備と技術の進歩に伴うスタイルのもの(動画)が増加中。

↑ 米オンライン広告売上推移(米、10億ドル)(広告様式別)
↑ 米オンライン広告売上推移(米、10億ドル)(広告様式別)

とはいえ、やはり「検索」広告のシェアは絶大で、全体の半数近くを占め続けていることに違いは無い。検索行為は利用者の需要を直接描くため、「提案」を行う広告にとっては親和性が極めて高いのがその理由。

オンライン広告の多くは代理店経由となるため、「広告出稿主の広告費」すべてが広告を掲載したニュースメディアを潤すわけではない。一方、自らの広告を検索エンジン上に展開することで、「さらなる読者を検索エンジンから呼び寄せる」「その読者に自ニュースメディアでの広告を活用してもらう」という、トラフィックのポジティブ・スパイラルを模索することもできる(「一見さん」を多く呼び集め、少しでも「常連さん」になってもらえば、十分採算は取れる)。

高い成長率を示しているのが、動画やバナーなどで展開される「ディスプレイ広告」。広義では静止画、動画、リッチメディアなど「画像展開されるもの」を指すが、上記グラフでも2008年から2011年の間に「動画」が3.4倍、バナーが1.7倍と高い成長率を示している(「検索」は1.4倍)。この「ディスプレイ広告」でも上記の大手5社は高いシェアを維持している。

↑ ディスプレイ広告シェア(米、2011年)(億ドル)
↑ ディスプレイ広告シェア(米、2011年)(億ドル)

「ディスプレイ広告」の技術的手法としては「ターゲティング広告」が成長を続けている。広告の読み手・広告配信元双方のニーズのマッチングをより一層確実にするもので、「行動ターゲティング広告(ウェブの閲覧履歴を元に、より適した広告を表示する。読み手の趣向により近づいた広告を提供できる)」「リターゲティング広告(一度来訪したことがある=そのサイトに興味がある人だけに特定の広告を表示する)」など、閲覧者の心をどれだけつかめるか、どこまで興味関心を効率よくかき立てさせ、それに応えるかに対し、技術の開発意欲が注がれている。そしてそれらの技術開発は、確実に成果を見せている。



先の【米雑誌業界の動向(デジタル編)】でも触れたが、紙媒体の雑誌や新聞にとって売上が「媒体そのものの販売」と「媒体に掲載されている広告の広告費」から構成されるのと同様に、デジタル上のニュースメディアの売上も「媒体の利用料金・会費」と「媒体上の広告費」で構成されている。そして物理的メディアが無いこともあり、デジタル面でのニュース配信では後者の重みが大きい場合が多い。

Time誌のアプリまた、メディアが広告を出稿する立ち場で見ても、本文中で触れているように「検索経由で来訪した読者に気付きを与え、常連になってもらう、さらには有料会員として登録してもらう」の流れのようにロイヤリティの高い読者をつかむ可能性があるため、広告技術の進歩発展は他人事ではない。

今後はスマートフォンやタブレット機のような、機動力と表現力の高い端末による視聴が増えてくる。ニュースメディア側も先のTime誌のような、「アナログコンテンツを活かしながら、デジタルならではの切り口で読者のハートをつかむ」仕組みの創生と努力が求められよう。



スポンサードリンク



このエントリーをはてなブックマークに追加
▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2024 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー|X(旧Twitter)|FacebookPage|Mail|RSS