理想と予定、子供の数の推移…(下)理想数まで子供を持たない理由(最新)
2016/10/11 05:26
先行する記事【理想と予定、子供の数の推移…(上)理想数と予定数推移(最新)】において、国立社会保障・人口問題研究所が2016年9月15日に公式サイトにて公開した、日本国の結婚や夫婦の出生力の動向などを長期的に調査・計量する「出生動向基本調査」の最新版「第15回出生動向基本調査」の調査結果(独身者対象の調査と夫婦対象調査の双方)をもとに、夫婦間における理想とする子供数、そして現実問題として予定している子供数の動向を確認した。今回はそれをベースとし、理想数よりも予定数が少ない夫婦において、なぜそのような選択をしているのか、その理由を見ていくことにする(発表リリース:【第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)】)。
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理想数まで子供を持たない理由、最上位は「お金」次いで「高齢出産はイヤ」
今調査に関する調査対象母集団や集計様式に関しては、出生動向基本調査に関わる先行記事の【日本の「恋愛結婚」「見合い結婚」の推移】を参照のこと。
まずは「上編」の終わりの部分で「結婚後あまり期間が過ぎていない夫婦は、理想と予定が近い傾向にあり、結果として差異が小さくなる。全般的に差異がもっとも大きいのは結婚持続期間10-19年の層」とした件について。結婚持続期間別に夫婦を区分し、それぞれに「理想の子供数」と「(最終)予定子供数=現存子供数+追加予定子供数」を集計した結果が次のグラフ。
↑ 結婚持続期間別に見た、平均理想子供数と平均予定子供数(2015年)(人)
大よそ結婚の継続時間が長い夫婦ほど、「理想の子供数」が増える。一方で現在抱えている子供数に、予定している子供数を足した「現実的な予定子供数」は減少。20年以上で増えるのは、精神的・経済的に余力が増え、「もう一人ぐらいは」との認識が生じるからだろう(各回答者が「子供をあと0.5人ぐらいほしい」と回答するのは不可能)。結果として差が開いていき、10-19年がもっとも差異が大きくなる。
それでは調査母体の夫婦のうち、「理想子供数より予定子供数の方が少ない夫婦」において、「なぜ理想の子供数まで予定として産もうとしないのか」、その理由を複数回答で聞いた結果が次のグラフ。妻の年齢別に区分してあるので、夫婦の、特に妻の事情によって大きな変移があるのが確認できる。
↑ 妻の年齢別に見た、理想の子供数を持たない理由(2015年)(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定、複数回答)
トップは「子育てや教育にお金がかかり過ぎる」。これは差異があれど、妻の年齢に関係なく最上位にある。他に主な傾向を見ると、
・「高年齢で産むのはいや」「育児の精神的・肉体的負担に耐えられない」「健康上の理由」「欲しいけれど出来ない」は大よそ高齢になるにつれて増加する傾向がある。高齢出産の難しさを再認識させられる。
・「夫の家事・育児への協力が得られない」は若年の妻の方がやや高い。若夫婦だと夫の理解が得にくいのかもしれない。
・「自分(妻)の仕事に差し支える」は若年の妻の方が高い。共働きが多いか、自らの仕事へのこだわりが強い可能性が高い。
などが確認できる。
ちなみにこれらの値の総計を前回比(5年前比)で見たのが次のグラフ。
↑ 理想の子供数を持たない理由(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定、複数回答)
金銭的束縛や高齢出産を嫌う理由がやや後退した代わりに、望んでいるが身体的に難しいとする意見が増加しているのが確認できる。夫婦世帯の全体的な高齢化も一因だろう。
具体的な理想・予定子供数別に見ると
以上は全体、及び妻の年齢階層別による、「理想子供数より予定子供数の方が少ない夫婦」について、「なぜ理想の子供数まで予定として産もうとしないのか」の理由の内情。次に示すのは「理想子供数より予定子供数の方が少ない夫婦」における、「理想子供数と予定子供数の内訳別に見た、理想の子供数を持たない理由」。子供の数と、「理想より予定が少ない理由」について、何らかの関係があるのか否かが分かる。
↑ 予定子供数が理想子供数を下回る夫婦の内訳(2015年)
↑ 理想・予定子供数の組合せ別、理想の子供数を持たない理由(予定子供数が理想子供数を下回る夫婦限定)(2015年)
ポイントはグラフ中に赤い丸で示した4つ。上から順に「理想も予定も子供数が多くなるほど、金銭負担を重圧として認識し、理想子供数より減らす傾向がある」、「予定子供数が少数の夫婦では、望んでいるができない場合が多い(主に身体的状況をある程度自認している。「健康上の理由」も同じ傾向を示していることから、明らか)」、そして最後の2つは合わせて、ひとつ目と重なる部分があるが「理想も予定も子供数が多くなるほど、自分自身や周囲環境との調整が付きにくくなる」である。
概して「予定数が少ない夫婦は身体的な問題」「予定数が多い夫婦は周囲環境や経済的な問題」が重しになっているのが分かる。
以前【いわゆる「未婚の母」による出生率】で、少子化・出生率の低下を「先進国病」と表したが、今回のデータもそれを体感できる結果が出ている。理想子供数以下の予定子供数を計画している夫婦の多く(とりわけ若年層)は、その主要原因として「経済的な問題」を挙げている。これは「現状経済が厳しい」「経済状態が良好になれば出生率・子供数の増加が見込める」ことを意味するが、同時に「経済状態を見据えた上で、夫婦が出生や子供数をコントロールする傾向が強まっている」ことをも表している(「経済的な問題」と認識しているからこそ、子供の数を意図的に押さえている)。
この動きは新興国の少なからずの国で見られる傾向「貧しいならばさらに子供を産み、少しでも働き口を増やす」との考えとは逆行している。これは子供が成人になるまでの保護者としての教育・養育方針の違いであり、概して先進国ほど「子供が成人になるまで両親が手厚く保護する」傾向が強まるため、必然的に家庭全体の経済的負担も大きくなるから。
つまり「先進国ほど家計における子供に対する、保護のための負担が大きくなる(時間の長短だけでなく期間単位レベルでも)」「経済的観念も高まる」「従って子供の保有数を計画する際にも”ソロバン勘定”の要素が強まり、必然的に(色々な意味で)無理な人数を出産しなくなる」次第。これが先進国病たるゆえんではある。無論出生率の低下には、その他にも多数の理由、例えば新生児などの死亡率の低下も一因だが。
もちろん「ならば出生率を上げるには、夫婦に金をばら撒けば良いのか」との回答は愚策以外の何物でもない。【覚え書き......フランスとドイツの家庭生活調査-フランスの出生率はなぜ高いのか-】で例示しておいたが、先進諸外国ではトライ&エラーの形でさまざまな試みが行われている。(これまでの記事で提示した「非嫡出子」の社会的認知とサポートも一つだが)総合的なシステムを創り上げた、あるいは補強した上での手厚い保護、言い換えれば「ソフトとハードの両面からの支援」「社会全体で見守り、支える仕組み」が求められ、実際に構築され、それが成果を上げつつある。さらにこれまでの各種少子化関連の記事を読み返せば、解消策のヒント、先例はいくらでも見つけることができよう。
■一連の記事:
【理想と予定、子供の数の推移…(上)理想数と予定数推移】
【理想と予定、子供の数の推移…(下)理想数まで子供を持たない理由】
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