震災時のデマ情報の浸透とその打ち消し情報の広まり(2011年版情報通信白書より)

2011/08/18 12:10

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デマ総務省は2011年8月9日、2011年版の【情報通信白書】を公開した。その多くは以前【携帯電話とパソコンの所属世帯年収別利用率(2010年分データ反映版)】でも紹介した「通信利用動向調査」の結果を元にしているのだが、他にも色々な資料を元に注目すべきデータを多数収録している。今回はその中から、東日本大地震・震災時において拡散浸透したデマ情報とその打ち消し情報の広まりぶりを、一つの事例を元にグラフ化してみることにした(【該当ページ:コラム 震災時におけるTwitterの活用状況について】)。



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2011年3月11日に発生した東日本大地震は大きな被害を各所に与えたが、そのような大災害下では人心は不安定なものとなり、多くの誤った情報が流れやすい。今震災下においては【情報を伏せるのは良いことか否か】でも触れている通り、権威ある公的機関・政府組織による適切な量・質・分かりやすさを持つ情報の開示こそが不安要素を打ち消す最大の手立てにも関わらず、多くの事例において全く正反対の対応を「その時点での中央政府」などが行ってしまったこと、さらに情報を広めるツールによる情報の伝達速度がかつてない程に大きくなっていたこともあり、多くのデマ情報が流れる結果となった。そして残念ながら現時点においても、少なからぬ偽情報がちまたを闊歩し、それを信じている人達も少なくない(困ったことに、権威を持つと認識される人物が自ら広めている事例も多い)。

今「情報通信白書」ではその中から、本震当日に火災を起こしたコスモ石油千葉製油所の件について分析を行っている。今件は「火災に伴い有害物質の雨が降る」などのデマ情報が流れたもの。【丸善石油化学、新聞用インキ原材料DIB(ジイソブチレン)の生産工場復旧に「最低でも1年間は必要」】【コスモ石油の千葉製油所関連・「有害物質流出云々」のメールはデマ】、そして【コスモ石油千葉製油所火災の件、事故原因など精査される】などで解説しているが、住宅地から見える範囲で派手な火災が発生したこと、現地の様子が比較的早い時点で動画として投稿されたことなどを受け、「コスモ石油の爆発により有害物質が雲などに付着し、雨などといっしょに降る」などという内容のメールが、「コスモ石油二次災害防止情報」という公的メールにいかにもありがちな形でチェーンメールのごとく流れた。しかし翌日には事態を把握したコスモ石油側からも公的に否定の公知が行われ、デマが流れた・流した当人の理由は不明なものの、偽情報であることが確定した次第。

今件動向について、デマ情報・それを打ち消す否定情報双方に入りうる「コスモ石油」、そしてデマ打ち消し情報の可能性が高い「コスモ石油」「デマ」の双方の言葉を含むツイートについて、3月11日の本震以降3月13日までにかけてそのボリュームを計測した結果が次のグラフ。

↑ 震災関係の誤った情報に係るツイートの出現推移
↑ 震災関係の誤った情報に係るツイートの出現推移

このグラフの値はGoogleリアルタイム検索を用いて取得したとのことだが、現在このサービスはGoogleとツイッター間の該当契約が切れたため、機能も停止されている。その点でも貴重なデータといえる。

公式リリースによる爆発の様子それはさておき。火災が発生した震災以降、デマ情報がメインと思われるツイートは大きく増え、夜を経た12日の昼前から再び増加する傾向を見せる(オレンジ部分)。しかしコスモ石油側の公式否定情報が公知された夕方以降、「コスモ石油」単独のツイートに対する「コスモ石油」+「デマ」のツイート数が同じような増加ぶりを見せており、デマ情報以上にデマを打ち消す情報が浸透している様子がうかがえる(緑色部分)(打ち消し表現には「デマ」以外に「間違い」「謝り」「ウソ」「否定」など多数の組合せパターンが想定される)。

そして13日の昼過ぎには双方パターンのツイート数も大人しくなり、偽情報による情勢混乱はほぼ鎮静化したものと思われる。「情報通信白書」でも「約1日でTwitter上でのデマの打ち消しが行われたことが推察される」と分析しているが、ほぼその解釈で間違いないだろう。

今回取り上げられた「コスモ石油」周りのデマ情報の鎮静化が早かったのは、「該当者側による早期の否定公知とその情報の浸透」「デマ情報を肯定する『権威ある特定人物・団体』が存在しなかったこと(「-という話だよ」レベルであり、それを肯定する具体的な対象が存在しない)」「デマ情報の対象となりうる事象自身の早期鎮静化(完全鎮火は21日だが、それ以前に下火となっていた)」「各種報道機関による否定情報の公知で、不特定多数のルートからデマ情報が否定された」ことなど、多種多様な要素によるものと考えられる。

デマ逆に考えれば、そこまで手を尽くさないと、広まったデマ情報の鎮静化(+そのデマ情報による被害者を抑えること)は難しいということでもある。あるデマ情報が流れた際に、それと同じ量だけの否定情報を流しても、デマは沈静化しない。何倍も、何十倍もの労力が求められることになる。

ましてやデマ情報を肯定する、権威あるように見える人物・団体が実在するとなれば、例えその情報が論理的・科学的におかしなものであるどころか、害を成すようなものであっても、新興宗教のごとく信奉されてしまう可能性が高い。震災以降特に目立つタイプの「デマ情報」として、流言関連の社会学的見地からも注目すべき傾向であると共に、一人ひとり本人はそのような戯言に振り回されないよう、十分以上に注意を払ってほしいものだ。



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