アメリカ合衆国の債務引き受け手内訳と上限推移を眺めてみる
2011/08/02 19:30
多種多様なニュースで伝えられているように、アメリカ合衆国の債務((米)国債発行によって行われる借金)の上限引き上げについて、2011年8月1日、アメリカ議会下院は賛成多数で関連法案を可決。上院での決議も8月2日のお昼(日本時間では3日の午前1時)から始まる審議で採決される予定。この法案が通れば、現在上限が14兆2940億ドルと定められている国債発行額が、様々な財政赤字削減案と共に最低でも2兆1000億ドル引き上げられることになる。それでは現時点で上限ぎりぎりまで発行されている米国債は、いつの時代に発行され、それはどこが引き受けているのだろうか。引き受け手については以前【アメリカ国債(米国債)の引き受け先(2009年12月分データ反映・改訂版)】などで変移と共にお伝えしているが、いつの時期に発行したまでかは分からなかった。このような状況下で、先日The New York Times誌が【Q. and A. on the Debt Ceiling】で、The Wall Street Journalが【The U.S. Treasury will not default】という記事で、わかりやすい図と共に解説していた。そこで今回はこの2つの図のうち1つを再構築した上で、紹介することにしよう。
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まず一つ目はThe New York Timesのグラフ。こちらは数字が公開されているので、再構築しておく。
↑ アメリカの債務(国債)の借り手・貸し手(兆ドル)
レーガン大統領以前は現状と比べればほとんど無きがごとしの約1兆ドル(金額そのものは巨大だが)。その後レーガン大統領、ブッシュ大統領、クリントン大統領がそれぞれ1.5兆ドル前後ずつ積み増している。クリントン政権時はやや少なくなっているが、これは好景気(いわゆるネットバブル)で企業が儲けを得て税収も増え、結果として国債の発行増をする必要があまり無かったため。その分、今世紀に入ってからのブッシュ大統領(息子)は天井知らずの勢いとなっている。これは景気後退に加え、イラク戦争での戦費調達によるところが大きい。
貸し手はアメリカ以外の外国としては中国がトップ、次いで日本、イギリスなどの順。「アメリカは諸外国から借金しまくり」というイメージがあるが、実際には年金基金だの政治基金だの、国内投資家だのといった国内での買い手、さらにはFRBが支えているのが分かる。今般法案が無事成立すれば、最低でも2.1兆ドルが上乗せされるわけで、結果として今グラフの上限を突き抜けた形で貸し借りが行われることになろう。
一方The Wall Street Journalでは、1980年以降の債務上限(国債発行額上限、Debt Ceiling)の推移が描かれている。これは図をそのまま転載させてもらう(元データが見つからなかった)
↑ アメリ合衆国の債務上限と実際の債務推移(US Debt Ceiling)
オレンジの折れ線は債務上限、棒グラフはその年の実際の債務。Republicans(赤)は共和党、Democrats(青)は民主党を意味する。棒グラフはそれぞれその年の政権政党を意味する。下のラジオボックスも政党の割り当ては同じだが、Houseは下院、Senateは上院議会を意味する。
これと先のグラフを突き合わせて見ると分かるように、アメリカの債務が積み増されていったのはレーガン大統領以降。そして「上限に達した」「上限引き上げ」が繰り返され、上限が「夏休みの宿題スケジュール」か「ダイエットの目標」程度のものになってしまっているのが分かる。特にブッシュ大統領(息子)以降は勾配がきつくなり、繰り返しになるがイラン戦争の戦費の負担の大きさ、そして2007年夏のサブプライムローンショック以降の金融危機がアメリカ経済に与えた負荷が理解できるというものだ。
ちなみに二つ目のThe Wall Street Journalのグラフの記事、「The U.S. Treasury will not default」は「アメリカはデフォルトしませんヨ」と読む。8月2日に仮に法案が通らなくても、直ちに金庫の中身がスッカラカン、利子すら払えませんよ、売却資産もまったくないヨ(つまり米国債が飛ぶ、支払い不能になる、デフォルトする)、というわけではない(8月の利子支払いは約300億ドル、一か月の平均税収は2000億ドルなので、振れる袖はある。振ってよいか否かは別として)。
少なくとも8月上旬に突然アメリカ経済が終わりを告げたり、ドルが紙切れになるという心配はいらないようだ。もちろん「お金が足りないから借金上限増やして借り入れて、それを費用に充てる」を繰り返していては、誰も引き受け手がいなくなるし(FRBに「刷ってもらう」という手はあるが)、利子ばかりが増えて首が回らなくなる。そのためにも早期の経済回復と財政立て直しで、クリントン政権の時のような黒字会計(2000年は収益1.88兆ドルに対し支出は1.77兆ドルで済んだ)に移行するのが望ましくはあるのだが……。
「チェンジ」と叫んでも、それが果たせるか否かはまた別のようだ。それはまるでどこかで聞いたような話でもある。
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