「関心が低い18.4%」「神経質になり過ぎ52.6%」医師から見た周辺住民の放射線リスクへの対応
2011/08/02 07:02
QLifeは2011年7月27日、関東1都6県における医師に対する「医師は 『地域の放射能の健康影響』をどう考え、一個人として行動しているか?」という題目の調査の結果を発表した。それによると調査母体の医師の各自周辺地域での日常生活において、その地域の放射能への関心が低すぎる人が多いと憂慮している医師は18.4%であることが分かった。一方で神経質になり過ぎている人が多いと感じている医師は52.6%に達している(【発表リリース】)。
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今調査は2011年7月12日から19日にかけて、関東1都6県の医師に対してインターネット経由で行われたもので、有効回答数は342人。居住地比率は茨城5.6%・栃木5.6%・群馬4.7%・埼玉9.4%・千葉9.9%・東京49.1%・神奈川15.8%。男女比は85.7%対14.3%。
今調査では医師による周囲の状況判断、家族への指示、自分自身の行為、患者の動向などについて尋ねている。今回スポットライトを当てるのは、メディアなどを介して得られる社会全体の状況では無く、「医師が在住する地域の日常生活」における、周辺住民の放射線リスクへの対応状況。「無関心に過ぎる」・「神経過敏に過ぎる」・「どちらでも無い」あるいは「分からない」の3つの選択肢を用意し、いずれか一つを選んでもらった結果が次のグラフ。
↑ 地域での日常生活において、今はどちらの人が多いか
「関心が低すぎる、もっと鋭敏に反応すべきだ」と実感する医師は2割近く。一方で「過敏すぎる、もっと冷静に反応すべきだ」と認識している医師は過半数に達していた。以前【食品の産地厳選・雨に当たることは避ける…医師自らの放射線リスクへの対処法】で示したように、医師本人も半数近くが「食品の産地を検証対象にする」「雨に触れることは極力避ける」を実践していることから、そのレベルの行動までは実行しても納得はいくのだろう。しかしそれ以上の過剰行為をしたり、あるいは行動には現れていないものの、患者・周辺地域住民で心理的に必要以上の不安を持っている人が確認できる、という状況だと推測される。
資料には医師からのコメントのうち、敏感になり過ぎる事による、地域の健康問題としてのデメリットで「実際に(医師本人が)見聞きしている内容」が記されている。場所・性別・年齢は読み説く際に偏見を与える可能性があるため、本文のみを抽出すると次のようになる。
・乳幼児の精神衛生面では、過度の制限はデメリットとなるであろうが、内部被ばくによる危険性/影響が不透明-何十年先までの安全性のデータがない-を考慮すると、デメリットより、危険回避を優先させるべきである。
・神経質な母親が多く、求めに応じていると説明に多くの時間を要し、一般の診療に著しく差し支えるし、神経質な患者はクレーマーになりかねないので、診療に神経をすり減らす。
・不妊症治療の患者が減っていると聞く。このご時勢にあえて出産を望まないということのようです。
・いわゆるホットスポットに該当する地区に住んでいるが、周辺住民は何も気にしていないようであり、過剰な反応によるデメリットを見聞きすることは無い。
・レントゲン検査ひとつでも、そのデメリットの説明が必要になる(なかなか自由に撮影しにくい)。CT検査なども同様。
・この地域では放射能の新しい降下はなく、使用している土もほとんど汚染されていないと考えられるにもかかわらず、保育園で園児が栽培した野菜を「放射能が心配だから」と食べられない。
・どんな奇形児が生まれるかわからない以上、敏感になるのは仕方ないと思う。ただし、福島赤十字センターから届いた献血血液を輸血した後に、ラベルを見た家族に苦情を言われたことがあった。
・個人で放射能を測定したりするのはやり過ぎな気もする。マスクや肌を露出しないというのはどこまで有効なのか、証拠がない。それよりも、家に帰ったらすぐシャワーを浴びて体をよく洗い、服も着替える方が有効ではないかと思う。
・医療従事者は放射線に被曝しやすい。こんなに騒ぐのであれば、我々の健康を普段から気遣って欲しい。患者が具合悪ければ、一緒にレントゲン室に入り浴びなくてもよい放射能を浴びる。防護服は着ているが、100%ではない。お茶の値も、前値がわからなければ比較できないはずなのに、マスコミも騒ぎすぎ。
・本来遊んで体力をつけたり、物に触って体験したり、いろいろなものを食べたりといった子どもの成長要因が狭められているような気がする。
・小生は放射線科医ですが、特定の地域での幼小児は多少、注意をする必要がありますが、他は現在のところ実際上の問題はありません。
・精度に問題のある放射線量測定機が流通し、排水溝など汚染物が集まる場所でわざと測ってホットスポットを発見したなどというデータが横行している。気温を測るときに百葉箱を使うように、放射線でも測定条件を揃える必要があるし、測定機の精度管理も重要だ。このような正しくない観測方法が十分な批判を受けずに横行することは、理科教育上も問題が大きい。
・いまだに子供にマスクをさせたり、給食ではなくお弁当を持たせている家庭があるが、必要以上に敏感になることは、子供の成長に良くないと考えます。子供自身、自分のいる場所が安全ではないと感じながら生活していくことで、精神面に悪影響を及ぼすのではと心配になります。
・デメリットはない。もっと敏感になるべき。しかし、結局は自己責任だとも思う。気にならない人や高齢者は気にする必要ないし、注意も特にしない。
・パニック障害のようになる人が多い。また、放射能の問題に敏感になっていることから、他の健康問題にも敏感になり、いらぬ心配をしてクリニックに受診してくる人が多く、いくら大丈夫であることを説明しても納得しないので、非常に困る。
状況的には「第五福竜丸」やチェルノブイリ、スリーマイル、そして米中ソの大気中核実験が問題視された時の混乱に輪をかけたようなもの、という感はある。ただし【食品の産地厳選・雨に当たることは避ける…医師自らの放射線リスクへの対処法】の後半部分で解説しているように、マスコミ周りの弊害はそれらの事例をはるかに上回るものとなっているし、政府機関の対応(情報開示や適切な指示の有無)は「他人事」では無いにも関わらず「他人事」以下のレベルと評されても否定できないほどのもの。それが医師の視点でみた一般地域にも混乱を招いているのが分かる(同調査別項目では「当局の情報開示は信頼できるか」という設問に対し、「はい」は29%・「いいえ」は71%)。
また、精度の低い情報が一般の素人によって多数拡散され、それが精神的にマイナスの影響を与えていることに対する懸念も複数見受けられる。要はしかるべき場所による正しい情報が不足し、五里霧中になり、怪しげなささやきに惑わされる人が多いと表現できよう。
【情報を伏せるのは良いことか否か】などでも触れているが、インターネットや携帯電話、ソーシャルメディアの普及で情報の伝達スタイルや構造が大きく変化し、社会構造上の情報伝達の面での「常識」は、これまでとは大きく変化している。一般の人よりは専門家に近い、あるいは専門家そのものの医師の多くも感じているように、正しく、そして必要な情報の開示と適切な示唆・判断が求められよう。
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