「視える化」を上手く活かした水道局の広告
2011/07/12 06:29
数字や文章では概要を伝えにくい事柄について、グラフや図などでビジュアル化、あるいは状況を把握しやすいものに例えることで、多くの人の理解を得られるようにする手法を、最近では「視える化」と呼ぶことがある。昔から使われてきた切り口だが、最近はライフスタイル・生活リズムの点で皆が多忙化したこと、情報そのものが過密化し、一つひとつを眺める機会が得られにくくなったことから、「ぱっと見」で理解してもらい、さらに興味関心を引いてもらうという「引き寄せの窓口」的なやり方としての意味合いも持つようだ。今回紹介するのもその手法を用いたもので、瞬時に「なるほど」と理解し、思い改めさせてくれる、アメリカの公的機関が実施した啓蒙プロモーションである(【Ads of the World】)。
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↑ 大きな消火栓と小さな、普通サイズの消火栓。その意味とは……
これはアメリカのコロラド州デンバーにある水道局【Denver Water】が展開した野外広告。本来水を取り扱う営利企業なら、水の消費量が増えれば増えるほど支払われる料金もかさ上げされるのだから、「水を沢山使ってネ」とアピールするのが常。しかし一般商品と異なり、水道局は公的機関であり、配する水は有限。無駄な使われ方をされると、底をついてしまうかもしない。インフラを取り扱う機関としては、供給ストップは極力避けねばならない。そこで「大量に、そして無駄遣いしましょう」では無く「適切な使い方をしましょう」と利用者に啓蒙していかねばならないわけだ。
一方で【芝刈りを数理的に大研究】などにもあるが、アメリカでは広い庭を持つ人が多く、当然その庭の芝にまく水の量も膨大なものとなる。そこでデンバーの水道局では、「芝生を愛するのは分かるけど、余計に水をあげ過ぎてませんか? 適切な量はそれほど多くはないのですよ」と訴えるために用意したのが、上の消火栓。
左の消火栓の上には「あなたが庭の芝生にあげている水の量」、右には「あなた(の庭の芝生)に本当に必要な量」と書いてある。つまり「実際には左の消火栓ほどに大量の水をあげてますけど、本当は右側の分くらいで十分なのですヨ」「あなた、これだけ無駄に水を使い過ぎてますよ」ということを、サイズの違いで把握させようとしている。まさに「視える化」を行っているわけだ。
はた目で見ると、奇妙なほどに巨大な消火栓と、その横に普通のサイズの消火栓が並んでいる。どう見ても普通の情景では無い。そこで興味関心が沸き、近寄って見ると、個々の消火栓の上に描かれたコピーに気が付き、「なるほど」と理解できる次第。
水道局による、「水の節約」をアピールするための「視える化」ということで、一番関連性が深い消火栓の事例を最初に挙げたが、デンバーの水道局では他にも多種多様な日常生活の中にごく普通に存在する、「普通のサイズ」と「巨大なサイズ」のアイテムを並べ、「想像以上に無駄に水を使っていますヨ、本当に必要な水の量を知って下さいネ」というメッセージを伝えている。
↑ 公園のベンチ。左は今使っている水の量、右は本来必要な水の量
↑ 街頭売りの新聞販売機。意味合いは他のと同じだが、逆に大きなサイズのものを買ってみたくなる
デンバー水道局が展開した、水の使用量を例示した比較広告は他にも多数確認できるが、正直「これは意味が分からない」「差が分からない」というものもあり、全体的な評価は難しい。しかし少なくとも今件挙げた3つ、特に消火栓のものは見た目、そして訴えかけたい対象との連動性も合わせ、優れた手法と評する事ができよう。
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