「家庭での節電計画を分かりやすく・スマートに」を考えてみる

2011/06/02 12:00

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節電先日第一生命経済研究所は【節電計画のスマート化を考える(PDF)】というレポートを発表した。内容はといえば、「節電節電」と掛け声だけが大きいマスコミなどの風潮に振り回され、経済も心理の上でも萎縮してしまう「まずい節電」をすることなく、もっと具体的に分かりやすい切り口で、しかも節電ができる可能性が高い家計分野での節電にチャレンジしようではないかというもの。家計部門で正しい、そして有意義な節電を行えば、その分産業への負担を減らすことができ、経済の負担も軽くなるというものだ。今回はこのレポートを、これまでの当サイトの記事を絡めたり、グラフを再構築するなどして要約してみることにする。



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不確実性の罠
まずはあまり聞き慣れない「不確実性の罠」について。あらかじめ、しかも不安定要素の多い数字が設定されていると、それに比して多めの設定を行ってしまうというもの。例えばラーメン屋が「毎日昼間は100人くらいのラーメンを食するお客が来るが、念のために110人分くらいは麺を用意しておこう」というところか。今回の節電でも、政府目標は【節電目標、一律15%に引き下げ】であるにも関わらず、多くの企業でそれを超えた目標値を設定しているのは御承知の通り。

この「15%」という値は、東京電力の最大供給力と予想需要から算出されたものだが、直接企業がその数字を勘案して節電目標を決めたのではない(つまり「実質データからの観測・予測」「企業の目標設定」という2ステップではない)。間に「政府による目標設定」が挟まっているため、それぞれのステップ間で「余裕を持った設定」が行われ、そのダブリが生じてしまった結果が、20%や25%という、企業による過度とも思える節電目標の設定を生み出したこととなる(もっとも「政府の目標」への信頼性という面もあるのだろうが)。

伝言ゲーム元資料ではこの現象を「不確実性を恐れる心理が生み出すオーバーアクション」として警戒をすると共に、「不確実性の罠」と表現している。分かりやすく例えれば、伝言ゲームの過程で話が次第に大きくなっていく、あの感覚と同じと思えばよい。

また、これは資料では言及されていないが、多くの人が何気なく感じているであろう、報道などによる過度の節電のあおりも要因の一つといえる。つまり、節電を多めにしないと「悪しき者」扱いされるような風潮が構築されているというものだ。電力の無駄使いは慎むべきだが、過度な反応は逆効果となる。先日の自動販売機に対する過剰反応が好例。

節電そのものは悪い話ではないが、過剰な行動は逆効果をもたらす。ダイエットとばかりにまともな食事を採らずに倒れ、入院してしまうようなものだ。解決策としては、常に正しい情報が適切なタイミングで提供されることにより、過不足の無い(つまり皮肉な話だが、「無駄のない節電」)ができる環境の整備が求められる。先日【電力の使用状況を予想…予測ヤフーで「電気予報」スタート】などでもお伝えした、【ヤフーの電気予報】も一つの具体的例となる。

↑ ヤフートップページ中央部に配される簡易版「電気予報」
↑ ヤフートップページ中央部に配される簡易版「電気予報」(再録)

家庭の節電「可能性」
続いて家庭における節電の可能性。【経済産業省の「電力供給対策について」内「節電-電力消費を抑えるには」】のページに各種資料が配されているが、その中の【小口需要家の節電行動計画の標準フォーマット(PDF)】【夏期最大電力使用日の需要構造推計(PDF)】からデータを再抽出し、まとめてみる。

シンプルにまとめると「家庭で有効な節電をすれば、その分工場などが助かり、景気悪化を避けられる。しかしちまたではスローガンや掛け声、勢いばかり。『頑張れ』の連呼はいいが、具体的に何をすれば良いのか分からない。それではいけない。プロセスの提示、具体的手法の提案が大切」ということ。

実際、夏期のピーク時における予想消費電力は次のグラフの通りで、家庭用の電力が3割を占める。

↑ 夏期最大ピーク日における予想消費電力(東京電力管轄、14-15時時点、万kW)
↑ 夏期最大ピーク日における予想消費電力(東京電力管轄、14-15時時点、万kW)

そしてその時点における家庭の電力需要構成はエアコンが約半分、冷蔵庫が2割。有名どころでは待機電力が4%。いかにエアコンの電力が電力需要に大きな影響を与えているのかが分かる。

↑ 家庭部門のピーク時における電力需要構成(14-15時)
↑ 家庭部門のピーク時における電力需要構成(14-15時)

小遣いの無駄を減らすには、まず大きな支出からチェックする。節電でもそれと同じ考えで、大きな消費項目から考えていけばよい。元資料では「エアコン…使用時間の短縮、扇風機への代替」「冷蔵庫…新製品への買い替え、設定温度を変えたり扉の開け閉めなどを気を付ける」などとしている。この際、具体的にどのようなアクション・利用方法をすれば、どれだけ電力を消費するかが具体的に見えるよう、【ワットモニター 購入・試用】で紹介したワットモニターなどを調達し、自分で試してみることをお勧めする。

【待機電力の実態】で解説している「待機電力」も合わせて計測、確認すれば、大きな節電効果が望める。次のグラフは「非在宅時の電力需要」。以前【昼過ぎの自宅滞在率は3割…家に居て寝ている時間と起きてる時間の変移】でグラフを生成した通り、平日の昼前後の自宅在宅率は3割。7割ほどは自宅を開けて留守にしている。

↑ 家庭部門のピーク時における電力需要構成(14-15時)(非在宅世帯)(送電ロス除く)
↑ 家庭部門のピーク時における電力需要構成(14-15時)(非在宅世帯)(送電ロス除く)

↑ 平日の在宅行為者率(起床・睡眠別)(※睡眠在宅=在宅-起床在宅で算出)(記載は終了時間)(2010年)
↑ 平日の在宅行為者率(起床・睡眠別)(※睡眠在宅=在宅-起床在宅で算出)(記載は終了時間)(2010年)(再録)

「エアコン」は本人が不在でもペットなどのために利用している世帯があることを意味している。また、冷蔵庫と共に待機電力の割合の大きさが目に留まる。「エアコン」「冷蔵庫」は(継続稼働が必要なため)省エネの新型への買い替えが望まれる一方、「温水便座」は電源を抜くだけで節電を達成できる。わざわざコンセントを抜くのが面倒なら、【タップスイッチ(SANWA SUPPLY TAP-SP110BK 雷ガード) 購入】で紹介した『SANWA SUPPLY TAP-SP110BK 雷ガード(ブラック)』のようなタップスイッチを入手して使えばよい。

↑ タップスイッチ
↑ タップスイッチ

「ピーク時には自宅に居ないから関係ない」では済まされないのは、上のグラフからも分かる通り。そして自分が在宅していない時でも消費する「待機電力」の節電は、非常に大きなインパクトを与えることになる。具体例を一つあげると、当方が使っている某社のレーザープリンタは、待機電力として4Wが計上されていた。これを「面倒だから」とばかりに24時間コンセントを入れっぱなしにしておくと、それだけで一日4×24=96Wh(日)もの電力量となる。40Wの蛍光灯なら2時間強分の電力消費。これは大きい。慌てて上のタップスイッチを購入して取りつけた次第である。



ざっとまとめると、

・家庭に秘められた節電の可能性は十分。それらをしっかりと、しかも適切な形で行うことにより、経済への影響を最小限に抑えられる。
・電気の使われ方、節電の仕方は「視える化」により、過不足無く行われることが望ましい。
・エアコンと冷蔵庫が二大消費家電。省エネタイプの新型への買い替えや使い方への注意が必要。
・自宅に居ない時に使われる電力、特に待機電力への注意は欠かせない。とりわけ温水便座はウィークポイント

となる。また、元資料中に気になる言及として、

本当はエアコンの使用をなるべく扇風機に置き換えることが推奨されるが、そうもいかない世帯もあるだろう。意外に知られていないが、エアコンの送風は消費電力が少なく、種類によっては扇風機よりも省エネになる場合もある。日常、冷房温度を上げて強風にすると電気代がかかるように錯覚するが、冷房温度を2-3度下げて弱風で使う方が圧倒的に消費電力は大きい。こうしたテストは4千円台で購入できるワットチェッカーを使えば、自分で調べて様々な効果がわかる

というものがある。実際には個々の家庭のエアコンの機能次第だが、イメージや想像だけで行動するより(今件なら「エアコンはダメだ」の一点張り)、「視える化」によってはるかに正しい結果を導ける良い事例になるに違いない。

ローソンの節電対策LED工事なお元資料では企業の具体的かつ即効性のある対策として、LEDの導入を一例として挙げている。短期的なコスト増になるが、消費電力の継続的な減少だけでなく、LED業界に対するイノベーションのきっかけにもなりうる(そのためには積極的に国産のLEDを使う事が求められよう)。

やもすればテレビや雑誌などで半ば恐怖感をあおるような形で「節電」という言葉のみが繰り返され、無意識のうちに強いプレッシャーを覚えている人も少なくあるまい。今回の元資料でも警告しているように、そのような状況は「人々を恐怖させて媒体が売れるほど自分のビジネスが栄える」マスコミはともかく、経済全体では委縮させてしまう。正しい情報と、それに従った正しい判断と適切な行動で、有意義かつ過不足無い、無理のない節電を各自が果たして欲しいものだ。



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