電力供給の仕組みを図にしてみる
2011/05/03 07:16
東日本大地震による東北電力・東京電力管轄、特に東京電力管轄における電力供給力不足の問題は深刻で、該当地域に住む一般住民だけでなく、商業・工業にまで大きな影を落としている。一方で、これまでインフラの常として「十分な量があって当たり前」だったものが「不足気味」となっただけに、電力の概念について今一つ周知が不足しているのは否めない。山ほど創られ大混乱に陥っている震災対策本部・会議の一つ、経済産業省の【電力需給緊急対策本部】内において、「電力の需要と供給」に関する比較的分かりやすい図があったので、今回はその図の解説と、別の視点から見た図解を創作し説明してみることにする(【該当資料、PDF】)。
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乾電池のような少量のものならともかく(実のところ乾電池も電気を溜めているのではなく、化学反応を起こして電気を発生させているだけに過ぎない)、家庭用電源レベルのものは使う(需要)分だけ発電(供給)し、提供させねばならない。この発電する側・供給側が電力会社ということになる。
↑ 図解その1
この仕組みを電力需給緊急対策本部の資料では、需要と供給のバランスの取れたハカリで例示している。需要の「重さ」(電力)にあった分だけの供給用の「重り」(電力)を供給させ、バランスを保ち続けている。手持ちの重りの量が最大供給能力なわけだ。
「初めから最大限の供給用の重りを載せれば良いではないか」と考えるものだが、【東京電力の最大電力需要時における主要発電種類別電力】でも解説しているように、発電にはお金がかかる。毎日数人しかお客の来ないパン屋で、(仮に出来たとしても)千人分のパンを用意しても無駄になるのと同じ仕組み。もっともこの場合は「あまったね、もったいないね」で店側は頭を抱えるが、お客がパン不足で困ることは無い※(注)。
問題なのは供給力以上に需要が生じてしまった場合。
↑ 図解その2。供給力以上に需要が生じると……
必要な電力需要に対して十分な電力を供給できないと、図のように需要側のバランスが崩れてしまう。具体的にはまったく予想のつかない場所・規模・時間でいきなり停電したり、電圧が下がるなどのトラブルが発生する。先のパン屋での例なら、誰が買いそびれるかは分からないし、どれくらい買えないかも不明だが、とにかくパンが買えなくて不満をもらす客が発生してしまうということだ。
パン屋なら「今日はパンが不足しております」で何とか勘弁してもらえるが、電気の場合はそうもいかない。「予告も無いけど、電力供給力不足なので信号が止まってしまいました」「突然ですが精密機械工場の電気がストップしてしまいました」で頭を下げて済むものでは無い。
そして今は、電力会社側の「重し」そのものが不足している状態というわけだ。
●別の視点で例えてみる
とはいえ、電力需給緊急対策本部の例は少々分かりにくいかもしれない。そこで別の事例で説明してみることにする。
↑ 電力需給を下水処理で例えてみる
これは電力需給を下水処理で例えたもの。電力の供給量がそのまま、下水管に流せる汚水の量で、通常の下水管に流れている汚水量なら下水処理施設でも十分処理ができる。そして処理された水は海に帰される。通常は下水処理施設2か所分の下水管2本で足りるが、例えば大雨が降った場合は下にある予備施設へのパイプを開き、そちらにも汚水を流して処理をしてもらう。下水管の太さ=流せる水の量=下水処理施設の処理能力というわけだ。下水管のパイプにぎっちりと汚水が走っていなくても、当然問題は生じない。
現在はどのような状況なのだろうか。
↑ 現状の概念図
下水処理施設のうち1つが壊れ、下水管も一部が破損、使えなくなっている状態。汚水の量はさほど変わらないので、このままではオーバーフローを起こしてしまう。そこで予備下水管へのパイプを開いてそちらにも汚水を回し、予備の処理施設をも稼働させている状態。
さらに「揚水」と書かれている「貯水湖」へ、工場の稼働などで昼間大量に生じる汚水の一部を貯めておき、夜の比較的余裕がある時に下水処理工場に流して処理をしてもらう(厳密には「揚水発電」の概念とは異なるが、ピークシフトという考え方としてはこの覚え方でよい)。
しかしこのような状態の場合、メインの下水処理施設にはかなり無理をさせているし、予備の処理施設を使っても処理能力はギリギリ。今夏において懸念されているような状態、今例なら「汚水処理能力以上の汚水が発生した」ら……例えば大雨が降るなり、工場でトラブルが発生して大量の工場排水が下水管に流れるなり、大規模なうどん大会が開催されてうどんの湯で水が大量に捨てられたら?
↑ 需要が供給を上回ると……
まず下水管の排水量の限界を超えるので、各排水元(工場や家庭)に汚水が逆流してしまうかもしれない。そして運よく処理施設までたどり着いても処理しきれずはずも無く、施設周辺でたまった汚水があふれ出してしまう。施設は過負荷となり、処理しきれなかった汚水はそのまま海に……と、さまざまな不測の事態が起きてしまうことは容易に想像が出来る。そしてそれらはいずれも、利用者全体にとってマイナスとなることばかりだ。
「電力供給力は下水管の太さや下水処理施設の処理能力」「電力需要は汚水の排水」「今は下水管の一部が壊れ、施設も一部故障している」「汚水が少ない、つまり電力需要が少ない分には構わないが、能力以上の汚水が流れる=供給力以上の電力需要があると、何が起きるかわからない」これらのことは、一連の下水管周りの例えで分かってもらえるはず。
そしてこの例えで重要なのは2点。一つは「処理能力は貯められないので、ピーク時の利用における需給バランスを考えねばならないこと」。「夜は工場が働かないから汚水も出ない。だからその分の下水管の太さや処理施設の能力を、昼間に使ってしまおう」というとは出来ない。「貯水湖」(揚水発電)を使えば一部は可能だが、能力には限界があるし、効率も悪い(今例なら貯めている間に余計に水が汚れ、処理施設の処理能力が多分に使われてしまう)。
そしてもう一つは、「何か起きた時」のためにある程度予備を用意しておかねばならないこと。今例なら「突然の大雨で汚水量が増えてもオーバーフローを起こさないように、処理能力には余裕を持たせる」「下水管の一部が破損しそうなので、いつ破損して修理をするために止めても良いよう、余裕を持たせておかねば」などとなる。電力需給においてこの「予備」は5%-10%程度が必要とされており、これがないと何か不足の事態が起きた際に、すぐに「一連の工程すべてにトラブルが発生しうる」状態となる。
二つ目の考えは、いわば「保険」と同じ。昨今の電力供給絡みの話で一部において、この「保険」まであらかじめ食いつぶして試算している向きがあるので、ここであらためて言及しておくことにする。
※(注) パン屋ならその通りですが、電力の場合は供給過多になると、発電コストの無駄以外に電圧変動や周波数変動が起き、結局需要側も困ったことになるとのことです。thanks for @kaimai_mizuhiro氏!
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