4人に3人は「お金持ってるけど、でも」… 万引きした人の所持金と心理的背景

2011/02/07 07:17

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お年寄り先に【「高齢者万引き数増加」の話】で未成年者と高齢者の万引きに関する解説を行った。これは警視庁が2009年に発表した【万引きに関する調査研究報告書(PDF)】のデータが元になっている。この報告書は警視庁が2009年4月から6月にかけて行った調査をまとめたもので、万引きの被疑者からの聞き取り内容が豊富に盛り込まれている、極めて資料価値の高いものといえる。今回はその中から、「万引き被疑者の所持金」と「心理的な背景」についてグラフ化を行うことにする。



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今調査は万引きの被疑者1050人を対象にしたもので、年齢階層は少年(未成年者)40.8%・成人39.8%・高齢者(65歳以上)19.4%。男女比は644対406人。未成年者の学年区分は小学生12.4%・中学生45.6%・高校生30.6%・その他11.4%(未成年者中の比率)。成人の40.9%・高齢者の40.2%が一人暮らしをしている。また成人の22.2%・高齢者の42.2%が資産なしと答えている(収入無しは成人45.2%・高齢者32.4%、生活保護受給者は成人8.1%・高齢者18.6%)。さらに今件は万引き全体ではなく、調査対象となった被疑者を母体としていることに留意する必要がある。

万引きも窃盗に他ならない。そこで思い浮かぶのが「目的物を購入するお金すら持ち合わせていなかったのだろうか」という点。これについては「所持金が無い」と回答したのは全体の約1/4。未成年はやや多めで4割近くだが、成人は2割程度でしか無く、残りの8割は手持ちに現金を持っていながら犯行に及んでいる。

↑ 犯行時の所持金
↑ 犯行時の所持金

所持金があるにも関わらず万引きをしてしまった理由としては、最多回答が「使いたくない」、次いで「余裕が無い」。後者の「余裕が無い」は「所持金そのものが無い」に近いと考えられるが、前者は多分に(少なくとも第三者から見れば)「ワガママ」に他ならない。「使えるお金はあるのだけど、タダで手に入るのならそれに越したことはない」「余裕はあるけど減らすのはイヤだ」を意味するからだ。一方で「余裕がある」のと同時に「所持金が減ることへの漠然とした、そして強いプレッシャー」が、最悪の選択肢を被疑者に選ばせてしまった可能性も考えられる。いわば精神的に弱い部分がわざわいしたということだ。

それでは直接的な「金銭・生活上の困窮」で無ければ、どのような精神的・心理的なものがきっかけとなったのか。心理的な背景について思い当たるものを複数回答で聞いた結果が次のグラフだが、世代毎に大きな違いを見せている。

↑ 心理的な背景(複数回答、上位項目抜粋)
↑ 心理的な背景(複数回答、上位項目抜粋)

まず未成年は単純な事由「欲しかった」。所持金が無いとする回答率も高いところから、物欲衝動を抑えきれない幼さが感じられる。それと共に「ゲーム感覚」の回答率の高さが目立ち、テレビ報道などでよく伝えられる「子供はゲーム感覚で悪い事をする」の裏付けとなってしまっている。周囲の大人たちは子供に対し、「何度でもリセット・再スタートが出来るゲーム」と「リセットが効かない人間の人生」との違いを教示せねばならない(「誘いを断れない」の8.9%にも留意すべき)。

これが成人になると「孤独」「むしゃくしゃ」が上位に躍り出る。孤独感とストレス過多は共に現代社会では、主要な心理的問題としてしばしば取り上げられる、解決しなければならないテーマ。そしてそれが、万引きにも影響を及ぼしている。高齢者ではそのうち「孤独」が突出する形となっており、強い孤独感が引き金であることが分かる(とはいえ、孤独感の解消を万引きで行う必要性、両者を結び付ける理由には、疑問を呈さねばならないが。あるいは子供の「かまってほしくていたずらをする」のと同じ行動パターンなのだろうか)。

心理的な背景では、精神面な弱さが倫理観に負けた雰囲気を感じることができる。それでは被疑者達は生き甲斐、言い換えれば心の支えになるものを何に見出しているのだろうか。それらがあれば、あるいは心理的な弱さが補強できた・できるかもしれないと考えられるのだが。

↑ 生き甲斐-心の支えになるもの(複数回答)
↑ 生き甲斐-心の支えになるもの(複数回答)

ある程度予想できた回答ではあるが、「生き甲斐が無い」とする意見が最も多く、1/3以上を占めている。特に高齢者はその比率が高く、半数以上に達している。生き甲斐が無く、孤独感を覚え、「どの道生きていたとしてもしょうがない」「他人にかまってもらいたい」という発想の行き先として万引きを選択してしまう行動心理が推測できる。繰り返しになるが子供(特に幼児)における、「他人の注目を集めるためにいたずらをする行為」に良く似ている。

やや「家族」の部分が多いものの、その他の項目では押し並べて高齢者の値が低いのも特徴。やりたいこと、やるべきことなど精神的な意欲に欠け、意気消沈状態で日々を過ごし、今件回答対象者(つまり万引き被疑者)となってしまった様子がうかがえる。



今回の項目で特徴的なのは、高齢者の万引き行動事由が金銭的な問題以上に、心理的・社会生活面の上での問題が大きそうな点。心に開いたすき間を埋めるために、倫理観のたがを外して行動を起こしているとしたら、悲劇以外の何物でもない。逆に考えれば、その部分の解消ができれば、大いに状況は改善できる可能性を秘めている(あるいはこの点から間接的な原因として、【「お年寄りがいる家」のうち1/4・414万世帯は「一人きり」】【お一人な高齢者、女性は男性の2.6倍! 高齢者世帯の推移】でも挙げている、高齢者の一人暮らし世帯の増加も、万引き数の増加原因の一つなのかもしれない)。

なお余談ではあるが、交友関係(友人の数)は次の通りとなっている。想定の通り、成人では46.4%、高齢者になると52.9%が「友人はいない」と答えている。

↑ 交友関係(友人の数)
↑ 交友関係(友人の数)

社会性の欠如が万引きの要因であるという推測を裏付ける、データの一つとして見るに値するものといえよう。



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