「店員の声かけ」が一番、だが…万引き断念となり得る事象
2011/02/04 07:24
先に2011年1月28日付で公開した記事【「高齢者万引き数増加」の話】にて、未成年者と高齢者の万引きに関わる説明を行った。この内容は警視庁が2009年に発表した【万引きに関する調査研究報告書(PDF)】のデータを基にしている。この報告書は警視庁が2009年4月から6月にかけて実施した調査をまとめたもので、万引きの被疑者からの聞き取り内容が豊富に盛り込まれており、この領域のデータとしては非常に稀有で資料価値の高いものといえる。今回はその中から、「こうしたら・されたら万引きを断念したと、被疑者が考えている事象」についてグラフ化を行うことにする。
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今調査は万引きの被疑者(要は犯行を犯したと推定される人)1050人を対象にしたもので、年齢階層は少年(未成年者)40.8%・成人39.8%・高齢者(65歳以上)19.4%。男女比は644対406人。未成年者の学年区分は小学生12.4%・中学生45.6%・高校生30.6%・その他11.4%(未成年者中の比率)。成人の40.9%・高齢者の40.2%が一人暮らしをしている。また成人の22.2%・高齢者の42.2%が資産なしと回答(収入無しは成人45.2%・高齢者32.4%、生活保護受給者は成人8.1%・高齢者18.6%)。さらに今件は万引き「全体」ではなく、「調査対象となった被疑者」を母体としていることに留意する必要がある。
万引きとは先の記事にもあるように、「窃盗の一種」「営業時間中の商店・小売店などにおいて、販売を目的として展示・陳列してある商品・見本および展示・陳列のための備品などを、店側の目を盗んで窃取する行為」と定義づけられる。つまり「窃盗」の一形態に過ぎない。「窃盗」などと比べて軽い犯罪だという認識は間違いである。
調査母体である万引き被疑者にとっては「もしも」の話でしかないが、「仮にこういうことをしたら・されたら、自分は万引きを断念したに違いない」と思う行為について挙げてもらった結果が次のグラフ。
↑ こうしたら・されたら万引きを断念した(最も可能性の高いもの)
世代を経るにつれて多少「店員からの声かけ」が増え、「警備員の配置」が減る傾向が確認できるが、大勢は変わらない。一番効果的と思われているのは「店員からの声かけ」、次いで「警備員の配置」となっている。また「断念する事は無い」とする意見がほとんど無いのにも注目すべき。逆に考えれば、多数の(?)万引き予備軍がこれらの「ハードル」で、渡ってはいけない橋を渡らずに済んでいるともいえる(無論、禁煙周りの話と同じで「そう思っている」と「実際に止めることができた」とは別の話である)。
ならば「問題がありそうなお客には店員が声をかければいいのでは」という考えが思い浮かぶ。しかし実際には個別にそのような「声かけ」をすると、「自分を疑うのか」と逆切れされたり(その人が本当に万引きをしている・していないはともかく)、不愉快な思いをお客がする可能性もあり、お店にとってもなかなか難しい話ではある。
また、この「声かけ」が万引き防止に役立つ事実がこのような形で数字化されているのを見るにつけ、古本チェーン店やコンビニで店員さんがしきりに値引き商品やキャンペーンの内容を大きな声で(個別のお客に語りかけるように)繰り返し語る意味が、実によく理解できるというものだ。あれは単に店員が気合いを入れたり公知を行うだけでなく、このような効果も狙っている……と考えた方が納得がいく。
やや余談になるが、初犯と再犯に区分した場合、少年においては特に差異が見られる結果が出ている。
↑ こうしたら・されたら万引きを断念した(最も可能性の高いもの)初犯者と再犯者比較(少年のみ)
再犯の少年は「店員の声かけ」よりも「警備員の配置」を注視しているのが分かる。これは報告書にもあるように「より直接的な万引き防止の働きがけに注意が向いている」と説明できる。言い換えれば「用心深く、自分のしている行為を十分理解した上で行動している」のであり、より悪質な事例ともいえよう。
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