一部は回復、一部は……主要新聞社の短信から有望性を試算してみる(2011年1月時点)
2011/01/18 07:31
昨年末に幾つかの新聞社から中間決算短信が発表された後、以前の記事【お財布事情は毎日が一番……主要新聞社の短信から有望性を試算してみる】がたびたびアクセスされる機会があった。どうやら各新聞社の財務諸表そのものではなく、その指標からどの程度良いのか悪いのかという具体的な指針を求めていたようだ。そこで今回は、各新聞社において手に入る一番新しい短信を基に、以前作成した計算式を使って有望性を計算してみることにした。
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まずは短信の取得方法。
テレビ東京のサイトから、2010年9月4日に発表された【2010年12月期中間決算(PDF)】を取得。
■毎日新聞社
【半期が赤字に転落した毎日新聞の最新版「おサイフ事情」をチェックしてみる】を参考にEDINETからデータを取得。最新の短信は2010年12月24日に発表された第34期(平成22年4月1日-平成23年3月31日)の半期報告書。
■朝日新聞
同上。2010年12月20日に発表された第158期(平成22年4月1日-平成23年3月31日)の半期報告書が最新の短信。
■産業経済新聞社(産経新聞)
社内サイトで公開中。最新は【平成23年3月期中間決算短信(PDF)】
唯一発行部数1000万部をキープしている読売新聞だが、前回の記事同様に読売新聞グループ本社の決算短信は公開されているものの、非常にシンプルな数字でしかなく計算式を埋めるだけの項目は用意されていない。さらに公開されている読売新聞グループ本社は名前の通り、読売新聞東京本社や読売新聞西部本社など実働会社を束ねる管理会社でしかなく、実働会社の方はEDINETにもデータは非公開となっている。よって今回も計算を断念せざるをえなかった。
なお全新聞社とも中間短信の値を採用している。前回は日経新聞が通期、他の新聞が半期とやや不公平に覚える部分もあったが、今回は一応横並びとなり、公平さを保てた形となった。
そして用語の解説。これは【日経新聞の決算短信から有望性を試算してみる】の時と変わりは無いのでそのまま引用する。
・流動比率……流動資産÷流動負債(120%以上が望ましい)
・手元流動性……(現預金+有価証券)÷(売上高÷決算月数)(1か月以上が望ましい)
・自己資本比率……(株主資本+評価・換算差額など)÷負債・純資産合計(15%以上が望ましい)
■収益性のチェック
・売上高営業利益率……営業利益÷売上高(5%以上が望ましい)
・在庫回転期間……(商品及び製品+仕掛け品+原材料及び貯蔵品)÷(売上高÷月産月数)(前年と比べて減っているのが望ましい)
■成長性のチェック
・売上高伸び率……(当期売上高÷前期売上高)-100%※
・固定資産投資……固定資産の取得による支出が減価償却費を上回っているのが望ましい
※大本は(当期売上高÷前期売上高)のみだったが、「-100%」を加えることで変化率を算出する
まずは流動比率について。これは1年以内に得られる現金その他同等物を、同じく1年以内に返済すべき負債で割ったもの。100%を下回るといわゆる「自転車操業」になる。なお今回はせっかくなので、全グラフで前回のデータを併記しておく。
↑ 流動比率
この値は多少の余裕を持って120%以上が望ましい。日経と朝日はクリアしているものの、毎日・産経は危ないラインに。しかも両社とも悪化の一途をたどっている。
続いて手元流動性。現預金・有価証券を足したものを月商で割ったもので、この数字が低いと、資金繰りに窮している形となる(流動比率より一層短期間の「資金繰り」度のようなもの)。1(か月分)以上が望ましい。
↑ 手元流動性
毎ボーダーラインの1か月分を割り込んでいた毎日新聞も、どうにか1か月超え。とはいえ、ギリギリなラインに違いは無い。
自己資本比率。一般の上場株式会社でも良く話題にのぼる値。15%以上が望ましいとされるが、業種によって多分の違いが生じてくるので一概にはいえない。ただし今回は同業種内での比較のため、各新聞社間の相対的な位置づけはできる。
↑ 自己資本比率
毎日新聞の財務的な危うさはすでに知られる通りだが、それ以上に産経新聞も危険ラインに達している。そして両社とも、少なくとも日経や朝日よりは綱渡り状態なのが確認できる。
売上高営業利益率は、当サイトの分析でもよく出てくる値。要は売上高に対してどれだけ利益をあげられるかを示したもの。この値が大きい方が、効率的に商売をしていることになる。
↑ 売上高営業利益率
前回営業赤字を出してマイナスだった日経・朝日・毎日のうち、日経と朝日は黒字に転じたのでプラス。しかも日経は3.4%とそれなりに良い値を見せている。前回意外扱いした産経新聞は今回も黒字を出し、数字をプラスにしている。やはり販売管理費などの経費削減効果が大きく出ているのが、財務諸表から見て取れる。
在庫回転率……は計算したが、グラフにするほどの変移はないので省略。後述するように各新聞社の特質が出ているのが分かる程度。
続いて売上高の伸び率。
↑ 売上高伸び率
全社マイナスということは前回の記事内データよりさらに売上が落ちていることに違いは無い。しかし同時に下げ幅が1社を除いて縮小しており、状況悪化に歯止めがかかる兆しを見せている。一方で「除かれた1社」こと毎日新聞は売上減少率を拡大。前回は「4社中もっとも売上高の減り具合が小さかった」のが、今回は「もっとも大きい」新聞社となってしまった。
最後に固定資産投資。これは減価償却額から有形・無形の固定資産への投資額を差し引いたもので、プラスならその年は将来に向けた投資を(資産の形で)積み増している、マイナスなら逆に過去の資産を食いつぶしている計算になる。
↑ 固定資産投資(百万円)
全社ともマイナス。とりあえずは足元をふらつかせないようにするのが一義的な目標で、将来に向けた投資をする余裕はない、ということなのだろうか。
以上駆け足で各指標を見たが、結果を箇条書きにまとめると、
・財務的には日経新聞と朝日新聞が比較的健闘、毎日と産経はかなりリスクが高い状態
・4社ともまずは短期的な足固めが先行しており、中長期的な投資は後回し
などとなる。
最後に在庫回転率について。ざっとまとめると「日経健全化」「毎日悪化」「朝日横ばい」「産経やや悪化」という形になる。まさに各新聞社の現状を表しているかのようだ。
次の計算機会には、各社共どのような動きを見せるのだろうか。新聞業界全体が縮小の方向に進んでいるだけに、各社の経営方針・現状への対策や、その成果の度合いが気になるところだ。
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