【更新】今年倒産した上場企業(2010年最終版)

2010/12/30 12:10

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倒産イメージ(2010年最終版)一昨年2008年は最終的に33件(上場廃止後に倒産したエー・エス・アイを含めると34社)の上場企業の倒産が数えられ、これは1年間の数としては戦後最高数を記録した。2009年は事業再生ADRを活用する企業が増えたため20件に減ったが、決して少ないわけでは無かった。今年は昨年・一昨年と比べてさらにゆっくりとしたペースとなったものの、複数の上場企業で倒産が確認されてしまった。今回は12月末(30日)時点における上場企業の倒産状況を、例年のごとく複数のグラフから眺めてみることにする。



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まずは今年に入ってから、12月末時点の上場企業における倒産企業一覧。1月に1件、5月に3件、8月に1件、9月に1件、10月に3件、合計で9件となる。

2010年における上場企業の倒産一覧(12月末時点)
↑ 2010年における上場企業の倒産一覧(12月末時点)

なお「不動産」には直接の不動産売買以外に不動産投資、不動産関連事業も含めてある。詳細に分類してもあまり意味をなさず、まとめた方が状況を把握しやすいというのがその理由。またリスト上の「プロパスト」は後述するが、上場中に「倒産」したものの、上場を維持できたという、非常に稀有な例でもある。

次に、セクター(業種)ごとに負債総額を累計し、負債総額全体に占める割合をグラフ化する。

2010年に倒産した上場企業の負債額区分12月末時点)
↑ 2010年に倒産した上場企業の負債額区分(12月末時点)

圧倒的に「空運業」が多かった(日本航空によるもの)5月末時点のデータなどと比べ、「その他金融業」に大分食われているのが分かる。これは武富士の影響。そしてこの2件で全体の8割強を占めており、両社が今年の上場企業における倒産事例の象徴であることを改めて認識できる。

2010年における倒産上場企業負債総額上位10位と負債額(億円)(12月末時点)
↑ 2010年における倒産上場企業負債総額上位10位と負債額(億円)(12月末時点)

去年・一昨年はこのグラフも赤系統で染まったものだが、今年は3件に留まった。淘汰が進んだ結果によるものか、それとも倒産以外の道(ADRなど)へ逃れる企業が増えたことによるものか。恐らくはその双方だろう。

2008年-2010年における上場企業倒産件数(2010年12月末現在)
↑ 2008年-2010年における上場企業倒産件数(2010年12月末現在)

一昨年2008年の上場企業の破たん傾向は、前半こそおとなしかったものの後期から加速化。その流れは2009年に入ってからも継続状態となった。しかし後半に入るとまるで息を止めたかのように静かなものとなり、わずか2件に留まっている。これは最後に解説するが、「事業再生ADR」の利用など「企業の破たん」以外による上場廃止・上昇廃止回避措置が頻繁に行われたためである。その傾向は今年2010年に入っても変わず、むしろ顕著化する傾向にある。

最後に「市場から失われた資金」を計算してみる。これは上場廃止告知日におけるその企業の株価に、その企業が発行している株式総数(ヤフーファイナンスから取得)を乗じた、いわば「倒産告知時の時価総額」。倒産≒上場廃止となればその企業の株式の流動性はほとんど無くなり、破産ならほぼ資産価値はゼロとなる。民事再生や会社更生でも上場廃止後に何らかの資産価値を得られる可能性は極めて低い(まれな例外として、上場廃止後に清算された分配金が、上場廃止時の株価を上回る場合もある。また後述するように「倒産」しても「上場廃止」にはならない場合も、資産価値はゼロにはならない)。

そこでここでは、上場廃止告知日のその企業における時価総額を、「株価がゼロ」=「時価総額がゼロ」になるとみなし、そこに投じられた資金が市場から失われてしまうと考え(少なくともそれに近い額がそれぞれの株主から失われるのは疑いようもない)、計算してみることにした。突然破たんとなれば株主の売りぬけの機会も無く、この値は大きくなる。一方で倒産告知前に何らかの「気配」が感じられていれば(例えば創業者の不自然な自社株の売り抜けや、主要事業区分の他社への売却、資金繰りの極端な悪化など)、投資家はそれに気づき、手持ちの株式を売り抜けようとするので、自然に時価総額も下がることになる。

2010年における倒産上場企業の倒産告知日における時価総額(≒市場から「失われた資金」)(2010年12月末現在)
↑ 2010年における倒産上場企業の倒産告知日における時価総額(≒市場から「失われた資金」)(2010年12月末現在)

・倒産ペースは沈静化
・日本航空と武富士で8割強
会社更生法が適用された日本航空は、申請以前から色々な思惑・噂・情報が飛び交っており、また対処した担当政治家の無為無策無能さもあり、株価は乱高下。通常の投資家が「逃げる」機会はそれなりに設けられていたものの、それでも非常に大きな値が出ている(昨年のSFCGによる約158億円と比べれば少ないが)。また、時価総額の面ではむしろ武富士の方が規模が大きいことが分かる。直前まで高配当銘柄であると共に「よもや4大消費者金融の一角が崩れることなど」という思い入れが、逃げ遅れを招いたと考えて間違いない。

なお後述するように、不動産業からプロパストの分は除いてある。ともあれ今年は「日本航空と武富士の年」と評することができる年といえる。



さて、本文中で触れられなかった留意・特殊事情について3つほど改めて補足説明をする。まずは事業再生ADR(Alternative Dispute Resolution)について。昨年後半から顕著な傾向として見受けられる、上場企業の破たんによる上場廃止の減少理由は次の通り。

・破たん確率の高い企業が「淘汰」されたため、残った企業は比較的破たんリスクが低かった(時間の経過と共にリスクが積み上げられる企業もあるため、皆無ではない)。
・破たん以外の上場廃止規定に抵触して上場廃止となった。
・事業再生ADR(Alternative Dispute Resolution、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に基づく、裁判外紛争解決手続。要は裁判以外で債権者・債務者が腹を割って話し合い、早急に事態打開の解決策を検討し合う)を用いて破たん(と上場廃止)を乗り切った。

などとなる。例えば今年に入ってから事業再生ADRを申請した企業をリストアップすると、

・さいか屋(2月1日成立)
・アルデプロ(3月2日申請・受理/6月29日成立)
・日本インター(4月26日申請・受理/6月22日成立)
・大和システム(6月1日申請・受理/不成立)
・丸和(6月30日申請・受理/10月22日成立)
・新日本建物(9月3日申請・受理/11月25日成立)

と6社に達する。他に日本航空も事業再生ADR適用を模索していたことなども合わせ、多くの企業がADRによって破たんから免れている。もっとも事業再生ADRを実施した企業も大規模な減資を余儀なくされる(株主責任を負わせなければ債権者の債務放棄・返済猶予に対する了承を得られないため)ことが多く、そうでなくとも株価は減資リスクを恐れて売り込まれ、大きく値を下げるため、株主にとっては事実上の倒産に等しい立場に置かれることも少なくない。さらに大和システムのように、受理されたものの交渉が難航し、結局不成立・倒産という事例も生じている。

事業再生ADRの適用による破たんの回避そのものは決して悪い事ではない。「オール・オア・ナッシング」よりは、まだ救いの道が残れさていた方が良い。その観点では「事業再生ADRを活用する企業の増加」は「事態の改善」と見るべきだろう。

一方、「不適当な合併」「市場に対する重大な背信行為」「債務超過継続」「四半期報告書の提出遅延」「決算書虚偽申請による上場の発覚」など、倒産以外の上場廃止要件はその数を増している。こちらは単純に「倒産による上場廃止企業の減少」というよりは、「市場からの退場経路の複雑化」と読み解いた方が無難な感もある。

もう2つ目の補足説明はプロパスト(3236)について。同社は2010年5月14日に民事再生手続き開始の申し立てを行い、一般的な日本語の解釈上における「倒産」状態となる。しかし同時に、JASDAQ等における株券上場廃止基準の特例第2条第1項第(6)号の規定の適用を申請しており、「再建計画が正当なものとして裁判所に認められる見込みがある(100%減資などは含まず)」「再建計画発表翌日から1か月間の平均上場時価総額または該当一か月間の最終日の上場時価総額いずれかが5億円以上になる」などの条件を満たせば、上場を維持できることとなった。結局6月14日に上場時価総額審査をクリアし、同社は「倒産しながらも上場を維持する」という、極めてまれなケースに該当した企業として現在も上場中。よって最後のグラフ「失われた資金」から、プロパスト分は除いてあるのでご了承いただきたい。

最後に【東証一部のシルバー精工、二回目の銀行不渡りを出して銀行取引停止処分・東証も上場廃止を決定】で触れたシルバー精工(6453)について。二度目の不渡りを2010年12月22日に出したものの、それを公知せず上場を継続。しかしそれが28日に発覚し、倒産では無く「上場会社が発行した手形等が不渡りとなり銀行取引が停止された場合に該当したため」(有価証券上場規程第601条第1項第6号)上場廃止が決定した。現時点でも[同社の説明にあるように(PDF)]資金確保が出来れば再建の可能性があるとして交渉を続けているところとのことで、倒産には至っていない。よって今件リストからは除外してある。

結局今年倒産した上場企業は9件と昨年よりも数を減らしたが、大規模な事例が2つもあったことや、倒産以外の事由で上場廃止となった企業が数多く見られたこと、そして何より株価が低迷し出来高も縮小していることもあり、決して景気が良くなったとは言えないのが実情。来年は色々と物事が動き、状況が改善されることを心から祈りたいところだ。



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