「新卒でなくとも新卒扱いで応募可能」な企業の動向
2010/11/18 07:15
先に【8月の時点で正社員労働力は均等、パートタイムは不足気味(2010年8月)】で今年8月時点における企業側から見た正社員・パートタイムの過不足分についてグラフ化したが、その際に利用した資料【労働経済動向調査(2010年8月)】では特別調査結果として、企業が新卒枠で既卒者(学校卒業後すぐに就職する者以外で、35歳未満の者。勤務経験の有無は問わない)の応募を受け付けているか否かに関するデータも掲載されていた。以前【卒業後1年の間に正社員になれなかった人、最大の理由は「就活したけど不採用」】でも触れていた話ではあるが、先日11月15日、マスコミなどに煽られた世論に押される形で【3年以内既卒者は新卒枠で応募受付を!!-「青少年雇用機会確保指針」が改正されました-】という取り決めが公布・即日施行されてしまっている。この指針が改正される直前において、企業側は今件に関しどのような姿勢を見せていたのかをかいま見れる貴重な資料でもあるので、今回はこれについていくつかをグラフ化してみることにする。
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今調査は2010年8月1日から6日にかけて同年8月1日の状況について、調査票郵送報告方式・インターネット利用のオンライン報告方式の併用で実施されたもので、対象は事業所規模30人以上の全国の民営事業所5835か所。回答事務所数は3303か所。
まずは2010年8月時点における、過去1年間での既卒者の応募受付状況。新卒枠で既卒者を受け付ける企業は25%。そもそも論として新卒者の応募が無かった企業が27%。厳しい状況がうかがえる。
↑ 過去1年間の既卒者の応募受付状況別事業所割合(2010年8月時点)
中途採用者枠ではやや規制はゆるやかになるが、それでも対象企業の三分の一。もっとも正社員の募集そのものがない企業もほぼ同率のため、これは仕方のない話なのかもしれない。
さて新卒枠で1/4、中途採用枠で1/3の企業が既卒者の受付をしていたと回答したわけだが、その企業において卒業後の経過期間の上限を定めていたか否かの問い合わせ結果が次のグラフ。上限がある企業は少数派で、過半数は「無い」としている。
↑ 新規学卒者採用枠に応募可能な既卒者の卒業後の経過期間の上限設定の有無別事業所割合
特に「医療・福祉」セクターで上限枠の無い企業が多いが、これは同セクターの慢性的な人員不足によるところが大きいと考えてよい。
それでは「上限がある」とした企業は、どれくらいの上限を設けているのか。具体的な年数を聞いたところ、半数前後は「1年以内」と回答している。要は卒業までの就職活動に失敗し卒業してしまったものの、就職の意思が固い人を救済、あるいは一本釣りする意図が企業側にあると見てよい。
↑ 新規学卒者採用枠に応募可能な既卒者の卒業後の経過期間の上限設定をしている企業における具体的上限期間
さすがに3年以上になるとゼロ、あるいは極めて少数の場合が多い。「3年も何をしていたのか」という無言の圧力が見えてくる(「一度他の所に勤めてから離職し、入社希望なら3年くらいは余裕でありうる」かもしれない。しかしそれを新卒枠で、というのはムシが良すぎる。そのための中途採用枠なのだから)。
いくつかのデータをざっとグラフ化してみたが、8月の時点で
・既卒者を新卒扱いで採用する企業の多くは経過期間の上限を設けていない。
・経過期間を設ける企業の多くは1-2年までが上限。
であることが確認できる。今回の指針改正でどこまでこれらの数字に変化が生じるのか、元々既卒者の受け付けをしていなかった(≒ニーズが無かった)企業が受け付けを行った上で、どこまでその企業の期待に応えられる人材が集まるのか、そしてなによりも「本来の新卒者枠」で求職をしていた人たちにどこまで影響が生じ得るのか。気になる点はあまりにも多すぎる。
昨今の論調や指針改正のリリースに目を通すと、既卒者の現状が厳しいから云々とある。それは確かに事実なのだが、これから就職活動を行う新卒者達が今件をどのような目で見ているのか。それに関する論評はほとんど耳にしない。不思議な話ではある。
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