「法人税が下げられたらどうする?」企業の回答トップは……

2010/10/15 12:05

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税金【法人税 税調などへ引下げを指示していると総理】などでも伝えられているように、ここ数日の間、現行政権で法人税の引き下げについて声高に語られている様子が伝えられている。実際のところ、【日本の法人税は世界一ィィィ! 主要国の法人税率】で解説している通り、日本の法人課税の実効税率(複雑な計算をした後の、最終的な企業負担となる法人各税の総計額比率)は世界最高基準にある。企業の国内誘致・海外への移転阻止、さらには国内企業の活力増大のため、さらにそれらから派生する形で生まれる様々な便益(雇用増大、景気回復、従業員への配分増加など)、法人課税の実効税率引き下げが求められている。しかし現状においては、たとえ法人税が引き下げられたとしても、すぐに直接従業員や研究投資などに大きな変化が生じそうにはない……そのような調査結果が、2か月ほど前の【帝国データバンクにおける特別企画調査:法人課税の実効税率等に対する企業の意識調査】で示されていた。今回はそこからいくつかのデータを抽出し、グラフ化してみることにする。



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今調査は2010年7月20日から31日にかけて全国の企業に対して行われたもので、有効回答企業数は1万1446社。まずは法人課税の実効税率が引き下げられた場合、その引き下げで余裕が持てた分をどこに充当するかについて尋ねた結果が次のグラフ。最優先項目を一つ挙げてもらったところ、もっとも多くの回答が得られたのは「内部留保」。次いで「借入金返済」だった。「財務体質改善」という観点で考えると合わせて42.4%に達している。

↑ 法人課税の実効税率が引き下げられた場合、引き下げ分を充当する項目(最優先項目)
↑ 法人課税の実効税率が引き下げられた場合、引き下げ分を充当する項目(最優先項目)

人的投資は「社員に還元」と「人員増強」で合わせて23.9%。資本投資は「設備投資増強」「研究開発投資拡大」で合わせて18.2%。全部足すと42.1%が「積極投資」に回ることになる。要は企業の現状においては、資金繰りが改善した場合、「財務体質改善」と「積極投資」は同じぐらいのウェイトで考えられていることになる。

もちろん今回答は「最優先項目」であり、(仮に減税されても)すべての金額が単一項目に回るわけではない。また、積極投資をしても財務体質が悪化して破たんしたのでは何の意味もないことを考えると、「財務体質改善」は中長期的な視点で考えれば「積極投資」ではないものの、間接的な投資ともいえる。足元がしっかりすれば、もっと色々な手が打て、伸び伸びと活動できるというわけだ。

とはいえ、「法人税減税」=「積極投資で従業員の給料もすぐに増える」という印象がそのまま現実のものとは成りにくいのも事実ではある。

続いて、現行の高率な法人課税の継続、そして現状では漸増する予定の社会保険料の負担が続いた場合、どのような対応策を取らねばならないかについて聞いた結果。こちらも最優先項目であり、「すべてそれしか実行しない」というわけではないことに注意。

↑ 公的負担(現状維持)に対する中長期的な対応策
↑ 公的負担(現状維持)に対する中長期的な対応策

いずれも対応なし・分からないは合わせて4割程度。そして法人税が現状維持の場合は、さらなる賃金・雇用調整が26.5%、設備投資抑制が17.0%。一方で社会保険料の負担増大では賃金・雇用調整が52.1%、設備投資抑制が4.8%と、大きな違いを見せている。これは社会保険料の負担増においては、賃金や雇用、特に雇用の調整をする事による効果が大きいからに他ならない。皮肉な話ではあるが、従業員をサポートするための社会保険料の負担が、従業員の生活そのものを脅かす状態となりつつあるわけだ。

海外移転、価格引き上げ、その他の項目は合わせても10%内外でしか無い。今件は「最優先項目」で、次点、次々点項目として適用されるかもしれないが、少なくとも最優先項目としては「法人税や社会保険料の負担は、そのまま従業員に跳ね返る場合が多い」ことになる。



ちなみに「法人税引き下げなどとんでもない。大企業優遇措置反対」という声を耳にすることがあるが、今件調査では興味深い結果が出ていたので、それを提示しておく。法人実効税率の引き下げの是非について、企業規模別に区分した結果を示したものだが、大企業より中小企業の方が、法人税引き下げを強く望んでいる事が分かる。

↑ 法人実効税率の引き下げの是非(企業規模別)
↑ 法人実効税率の引き下げの是非(企業規模別)

グラフ化は略するが、法人税率の継続や社会保険料の負担増の双方においても、大企業より中小企業の方がより大きな懸念を示している。今データには無いが、恐らく中小企業の方が「財務体質」の面で窮地に追いやられていることは間違いあるまい。



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