「既卒者採用減」は正社員募集減の影響強し・正社員過不足感はトントンに(2010年8月分)

2010/09/04 06:19

このエントリーをはてなブックマークに追加
就職活動イメージ厚生労働省は2010年9月3日、同年8月における労働経済動向調査の概要を発表した。それによると同年8月1日の時点で、正社員を募集する際の既卒者応募を可能とする企業は、新卒枠が25%・中採用枠が33%であることが分かった。データが計測された過去3年間の動向を見ると、「正社員の募集無し」の企業割合が増加した分がそのまま「既卒者の募集可能」の割合減少につながっていることが分かる。また各企業の労働者数の過不足判断DI値では、前回の発表【新卒採用企業、やや増加だが多数は「未定」・正社員はまだ過剰(2010年5月分)】と比べると多少改善し、「正社員:過不足無し」「パート:不足」状態が確認できる(【発表リリース】)。



スポンサードリンク


今調査は2010年8月1日から6日にかけて同年8月1日の状況について、調査票郵送報告方式・インターネット利用のオンライン報告方式の併用で実施されたもので、対象は事業所規模30人以上の全国の民営事業所5835か所。回答事務所数は3303か所。

今回の調査では前回・前々回に登場した「新規学卒者の採用内定」に関するデータは掲載されていない(同件は特別調査項目のため8月分では非掲載)。そこでまずは労働力の過不足に関する過不足分のデータを見ることにする。次のグラフはそれぞれの業種における「正社員」「パート」それぞれの労働力が過剰(余り気味)・不足(足りなさげ)な事務所の割合を算出した上で、「不足事務所」から「過剰事務所」を引いた値。この値がプラスな業種ほど、該当労働力が不足しており、マイナスが大きくなるほど労働力が余り気味であることを示す。

↑ 労働者過不足判断DI(2010年8月)(不足事務所割合-過剰事務所割合)
↑ 労働者過不足判断DI(2010年8月)(不足事務所割合-過剰事務所割合)

↑ 労働者過不足判断DI(2010年5月)(不足事務所割合-過剰事務所割合)
↑ 労働者過不足判断DI(2010年5月)(不足事務所割合-過剰事務所割合)(再録)

せっかくなので前回記事の2010年5月時点のグラフも併記するが、「医療・福祉」「運輸業・郵便業」「生活関連サービス業、娯楽業」などの人員不足、「サービス業」「卸売業・小売業」のパートタイム労働者に限った不足、その他は全般的に「労働力は余り気味」な状況はほとんど変わらない。かろうじて「宿泊業、飲食サービス業」の正社員、「金融業・保険業」のパートタイム労働者などが不足に転じたのが好感できる材料。また、前回深刻化していた「医療、福祉」の不足度はやや落ち着きを取り戻し、「建設業」の正社員余剰度合いをはじめ多業種に渡り「正社員余剰度」が改善傾向にあることが確認できる。

全体的な「過不足判断DI」の経年推移を見てみると、いわゆる2007年夏の「サブプライムローンショック」で「パートタイム労働者」への雇用調整が始まったこと、「リーマンショック」で大きな打撃が起きたことが把握できる。また、「パートタイム労働者」が2009年初頭のプラスマイナスゼロあたりで底打ちしたのに対し、「正社員」はさらにキツいカーブを描いて下落、2009年夏あたりからようやく復調の兆しが見えてきたことなども分かる。

↑ 労働者過不足判断DI推移(過剰事務所割合-不足事務所割合)
↑ 労働者過不足判断DI推移(過剰事務所割合-不足事務所割合)

この状況は前回とは基本的に変わらない。緩やかながら上昇傾向にあった両指数のうち、「正社員など」は今回ようやくプラスマイナスゼロの値を見せることになった。これは2009年2月以来のことで喜ばしい話ではある。しかしその内情は、上記グラフのように業態によって大きな過不足が生まれており、決して楽観視はできない状態であることに違いはない。

なお今回発表分では冒頭で触れたように「前回・前々回に登場した「新規学卒者の採用内定」に関するデータは掲載されていない」が、代わりに既卒者の正社員応募に関するデータが収録されていた。これは昨今においてしばしば話題に登る、「就職難が続くので就職活動が早期化され、大学教育にも影響を与えるから、企業側は卒業後3年間くらいは新卒者と同様に扱え」とする一部意見と関連する内容といえる。今件データはさかのぼって確認した限りでは、「2008年以降に8月計測データとして毎年公開」として定例化されている。そこで確認できる3年分のデータをグラフ化したのが次の図。

↑ 正社員募集において既卒者の応募が可能だったか否か(過去1年間において)
↑ 正社員募集において既卒者の応募が可能だったか否か(過去1年間において)

詳細データを見ると「企業規模」「企業業態」その他区分で数字にはバラつきが生じるのだが、全体としては「正社員募集無し≒正社員の過剰状態が、そのまま既卒者の応募をいっそう困難にしている」のが分かる。「本社等でしか回答できず」「無回答」「不可能」の項目はほとんど変化が無い一方、「正社員募集無し」の増加と「可能」の減少がほぼ連動しているからだ。

「新卒での就職が困難だから、数年は既卒でも新卒扱いにしろ」という意見については、就職希望者の後年への繰り延べでしかない(単純に考えても「疑似新卒者」の増加により「本物の新卒者」が一層就職が困難になる)のと共に、そもそも論として「既卒者の就職が難しくなるのは正社員そのものの募集が減っているから」が主要因であり、繰り延べをしたところで大きな意味はないこと、むしろ就職戦線に大きな混乱を招きかねないことを、今データから知るべきである。

次の公開予定は【発表予定一覧】によれば今年の12月上旬。その時には新卒予定者に関する各種データも再び掲載できよう。



スポンサードリンク



このエントリーをはてなブックマークに追加
▲ページの先頭に戻る    « 前記事|次記事 »

(C)2005-2024 ガベージニュース/JGNN|お問い合わせ|サイトマップ|プライバシーポリシー|Twitter|FacebookPage|Mail|RSS