米アマゾン電子書籍売上 ハードカバーを超える
2010/07/21 06:31
米アマゾンは2010年7月19日、Amazon.comで展開している電子書籍リーダー「Kindle(キンドル)」形式の書籍の販売数が、ハードカバーの書籍を上回ったと発表した。今件について米アマゾンの創設者の一人で現在CEOを勤めているJeff Bezos氏は「Kindle本体の価格を259ドルから189ドルに値下げしたことで本体の売上の成長率が、これまでの3倍に伸びた」とし、Kindle本体の値下げによる普及が電子書籍の販売数を底上げしたと説明している(【発表リリース、英語】)。
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リリースで公開された電子書籍やKindle本体の動向概要は次の通り。
・価格を259ドルから189ドルに下げたところ(6月に実施。iPadへの対抗と言われている)、Kindle本体の販売実績伸び率はこれまでの3倍になった。
・ハードカバー本の売上も伸びているが、それ以上に電子書籍の売上高は増加。米アマゾンの利用客は現時点で「(定期期間において)ハードカバー本より多くの電子書籍(Kindleで読める本)を購入している」。これは過去15年間アマゾンがハードカバー本を販売しているのに対し、電子書籍はまだ33か月しか販売していないことを考えれば、販売数の逆転を見せたのは驚異的といえる。
・現在アマゾンの電子書籍コーナーでは63万冊以上の電子書籍を取り扱っている。新刊はもちろん、ニューヨークタイムズで「ベストセラー」として紹介されている110冊のうち106冊までが網羅されている。
・63万冊のうち51万冊以上(ニューヨークタイムズ紙での「ベストセラー」のうち75冊含む)は9.99ドル以下で購入できる。
・180万冊以上の著作権切れの書籍も安価で読むことが出来る
・過去3か月の書籍販売で限定すると、米アマゾンでのハードカバー本の売上に対し、Kindle本体経由の電子書籍の販売数は1.43倍。過去1か月では1.80倍にまで拡大している(電子書籍はKindle版が無いハードカバーの売上を含み、無料の電子書籍は除外している。もし無料電子書籍も計算に含めれば、格差はさらに広がる)。
・2009年前半期と比較して、2010年前半期の電子書籍の売上は3倍以上に達している。
・米国出版社協会の発表によれば、電子書籍全体の売上は2010年5月においては前年同月比で163%、年初来では207%の成長を見せている。Kindle経由の売れ行きは5月単月、年初来共にこれ以上のセールスを記録している。
・フランス出版大手のHachetteはスリラー系小説で著名なジェームズ・パターソン氏の電子書籍作品がこれまでに114万冊売れたと発表している(7月6日)。そのうち86万7881冊はKindle本体経由によるもの。
・ジェームズ・パターソン氏をはじめとする著名な作家5人(シャーレイン・ハリス氏、スティーグ・ラーソン氏、ステファニー・メイヤー氏、ジェームズ・パターソン氏、ノーラ・ロバーツ氏)はそれぞれ50万冊以上の電子書籍をKindle経由で販売している)
Kindle本体そのものの販売数は非公開のままだが、本体経由で販売されている書籍数の急増ぶりを見ると、本体台数もダイナミックなまでに伸びていることは容易に想像が出来る。物理的な書籍にさまざまな長所があるのは事実だが、電子書籍の長所「すぐに手元に届き、読み始めることができる」「場所をとらない」「価格が安価」「一般書籍で絶版となったタイトルも入手が可能な場合がある」などの点は、実書籍以上に電子書籍の販売実績を大きく押し上げる理由となる。
また、一部で懸念されている「活字離れ」「書籍離れ」についても、【若年層の「新聞離れ」は「活字離れ」と無関係】などでも指摘されているように、単に媒体が広域拡散化したに過ぎないこと、むしろ電子書籍などデジタル化で、より多くの人が活字・書籍と触れあい、興味を持ち、時間を費やす機会を得ていることが、(海外の事例ではあるが)今件の「Kindle経由の電子書籍が猛烈な売上増を果たしている」事実からも裏付けられる。
電子書籍の普及が「グーテンベルクの印刷システムによる印刷革命・出版革命」と同レベルの革新・ムーブメントを書籍・出版に与えるという話もある。今回発表されたKindleに関する各種データは、それを予見させるのに十分過ぎるデータともいえよう。
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