【更新】高温での穀物不作には植物ホルモンが関係・オーキシンの散布で正常化の可能性
2010/04/28 06:23
東北大学は2010年4月27日、気温の上昇による小麦や大麦、トウモロコシの不作・収穫量減少(高温障害)には植物ホルモンの一つである「オーキシン」が深く関わっており、これを散布することで状態を回復させる可能性があることを発表した。同大学の生命科学研究科東谷篤志教授らによる研究成果で、同日米国科学アカデミー紀要[「Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America」の電子版(Early Edition: EE) ]に発表された。同件については国際特許PCT/JP2010/50101(東谷篤志、渡辺正夫、阪田忠)も出願している(【発表リリース】)。
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以前【「関東以南でリンゴが採れない」「日本近海でサンマ収穫が出来ない」地球温暖化の影響を予想】でも触れたが、高温障害による農作物への影響は農林水産省でも危惧するものであり、さまざまな観測・推定・対策が講じられ、模索され、意見が求められている。二酸化炭素の排出量と「地球温暖化」そのものについては昨今様々な事情から「?」マークが浮かぶようになったものの、農作物の収穫量減少という事実に変わりは無い。
本研究では、植物の高温障害による花粉形成不全のメカニズムについて研究を進めたもの。初期の発生過程にある葯(やく。おしべの一部分で花粉を創る器官)で特異的にホルモンの一種であるオーキシンの量、そしてそのシグナル伝達が低下することと、その要因としてオーキシンの生合成に関わるYUCCA遺伝子の発現が高温で抑制されることを明らかにした。要は「穂が創られて花粉が出来、受粉する時期に高温にさらされると、おしべの花粉そのものの生成量が減り、その能力も低下する」というもの。さらに、オーキシンを散布することで高温障害を「完全に」回復させ、正常な花粉が形成されること、そしてその結果、種子を結実させることを世界で初めて確認・成功させたという。
↑ 研究成果概要図
これら高温障害の要因とその回復プロセスは、単子葉(オオムギ)と双子葉植物(アブラナ科植物シロイヌナズナ)の両方で確認されたもので、広く植物全般に保存された事象。そのため、様々な作物にも応用できる技術と考えられる。今回の成果は、東北大学大学院生命科学研究科の当該研究グループが約10年間かけて明らかにしてきたもので、特に阪田忠博士研究員、押野健博士、安彦真文博士、三浦慎也修士、苫米地真理修士らの大学院生との研究によるものとリリースでは言及している。
なお実験の際に受粉(=収穫量)回復のために用いられた人工オーキシンだが、人類が初めて発見した植物ホルモンであり、主に植物の成長(伸長成長)を促す作用を持つ植物ホルモンの総称でもある。遺伝子組み換え技術も用いられていないとのことで、環境負荷の懸念も必要が無い(同様の植物ホルモンはすでに大いに利用されている)。
「高温障害に対する問題がクリアできそうなら、もしかしたら同じ方法で低温も?」と考えるところだが、リリースでもその件について「今後の発展」として「本研究をさらに発展させるとともに、イネの低温障害に関しても植物ホルモンの制御と遺伝子発現の観点から、同様に研究を進めたいと考えています」とあり、期待が持てる言及が行われている。
また本研究は、農林水産省・新農業展開ゲノムプロジェクト「重要形質領域」、文部科学省特定領域研究・植物ゲノム障壁、日本学術振興会科学研究費などによる支援を受けている。科学の探求とそこから生まれいずる成果が、未来に明るい日差しを差し込ませる要素となる、良い例としても注目したい。
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