「男性か女性か」「自国民か否か」・ワークシェアリング意識に関する世界各国の考え方(2017-2020年)(最新)
2021/01/28 05:01
企業、あるいは業界単位の経験の蓄積や修練、技術進歩に伴い労働の多くは効率化が図られ、同じ量の生産物を得る限りでは、必要となる労働力は減っていく。当然、労働市場における需給バランスは労働者が余る形になる。既存就業者の退職以外に、生産量の増大や新業態・新分野への進出で新たな労働市場、労働者を受け止める場が構築され、需給の調整がなされるのだが、タイムラグや環境の変化、さらにはマッチングの悪さから労働者が余り、失業率が上昇する事態が生じることになる。そのような状況の場合、雇用の面で、就業内容とは直接連動性の無さそうな属性別において、区別をすべきか否かが問われることになる。今回はその問題に関して、世界規模で国単位の価値観を定点観測している【World Values Survey(世界価値観調査)】から、各国の国民単位での考え方を比較していくことにする。
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就業に関する「男性を優先すべき」の発想は否定的
今調査「World Values Survey(世界価値観調査)」に関する概要、調査要項などは先行記事の【世界各国の「新聞・雑誌」や「テレビ」への信頼度】を参照のこと。
まずは「男性就業優先意識」。就業機会が限られる場合、他の条件を考慮せず、性別で判断して男性を優先すべきか。多分にケースバイケースとなるが、一般論として答えてもらった結果が次のグラフ。
選択項目として「強く肯定する」「肯定する」(以上肯定派)「否定する」「強く否定する」(以上否定派)「中立」「分からない」「無回答」が用意されており、どれか一つを選択することになっている(「無回答」は選択する、というよりは結果的なもの)。
この選択肢のうち今回は「強く肯定する」「肯定する」の肯定派を単純に加算して、その値から「否定する」「強く否定する」の否定派の値を引き、提示された意見への同意度合い(DI値)を算出した。つまりこのDI値が大きいほど、その国では該当する意見を強く肯定していることになる。マイナスならば否定的意見の方が多い次第。
↑ 就業機会が限られる場合、男性を優先すべきである(強い肯定・肯定−否定・強い否定)(2017-2020年)
「ウーマン・リブ(女性解放運動)」の話が思い起こされるが、就業において男性を優位にすべきであるとの考えには否定的な国が圧倒的であるのが分かる。特に北欧諸国をはじめとするヨーロッパで強い否定意見が出ている。エジプトでは非常に高いプラス値、つまり肯定派が多い結果が出ているが、これは国の事情(宗教など)の上で仕方のない話。
日本はといえば、わずかながらマイナス。この結果だけを見ると色々と物議をかもしそうだが、実は1つ留意点がある。選択肢中「中立」の値が日本は断トツの1位になっている。
↑ 就業機会が限られる場合、男性を優先すべきである(「中立」の回答値)(2017-2020年)
ポジティブに考えれば「男性が優勢である、いや違うといった類の話は、あまり考える必要はないのでは?」と冷静な判断を下している、ネガティブに考えれば「深い考えがない、問題意識がない」のだろう。最初のグラフの結果のみで、「日本は職業上、他国と比べると男尊女卑の国である」と断ずるのは正しい見解ではないことをここに記しておく。
自国民優先か、それとも
続いて「自国民就業優先意識」。こちらも値の算出方法は同じ。各国の「自国民の就業を優先すべきであると考えている度合い」になる。プラス幅が大きいほど自国民を優先すべき、マイナス幅が大きいほど自国民優先での採用はすべきではないとの意見が多数を占めることになる。
↑ 就業機会が限られる場合、自国民を優先すべきである(強い肯定・肯定−否定・強い否定)(2017-2020年)
先のグラフとは逆に、多くの国がプラスに振れている。日本はプラス側の国の中では真ん中ぐらいのポジション。全般的には移民の多い国ほど数字が低い傾向がある。スウェーデンは調査当時は有数の移民国家で、昨今ではさまざまな問題が生じ、物議をかもしているものの、今精査対象国では最大の「自国民優先主義は否定」の姿勢を見せていることに違いはない。
ただし移民の多い国、多民族国家でもプラスの値が大きい国もあり一様に片づけられる問題ではないことが推定される。
今回のデータも含め、「世界価値観調査」の調査結果は2017-2020年に取得されたもので、その多くは2019年までに調査が実施されている。そして当然、その後の世界の経済・政治情勢は反映されていない。根本的な国毎のスタンスに大きな違いはないだろうが、政策や経済、そして雇用の状況はここ数年で大きく動いており、今後関連諸国で同様の調査をした場合、同じような結果が得られるわけではないことを念のために記しておく。
日本の場合は男女の就業については「男性優位ではないが強い思いではない、大勢としてはあまり深く考えていない」、自国民か否かについては「比較的強く自国民優先であるべきと考えている」と見てよいだろう。
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