「相対的貧困率」について色々と考えてみる……(3)「経済格差」って単なる格差なのかな

2009/10/21 17:20

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お金イメージ厚生労働省から発表された「相対的貧困率」を元に、色々考えてみる特集記事その3。その2では「貧困率」という直接イメージにより近い、「絶対的貧困率」とつながりの深い、「十分な所得がないために生活必需品を買うことができなかった回答者の割合」の国際比較をグラフ化した。今記事では、「相対的貧困率」が意味する「経済的格差」を色々探ってみることにする。



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当サイトの読者なら、以前の記事のいくつかを思い出し、頭にはてなマークが浮かんだかもしれない。例えば【大企業の配当金と人件費の関係】を見ると企業の利益のうち人件費率はちゃんと増大してるよね。確かに【「仕事場は正社員2人に非正社員1人」、派遣労働者の割合は4年間で2倍強に増加】【正規雇用者・契約社員や派遣社員・パートやアルバイトなどの割合の推移】にもあるように、派遣の人たちが増えているので、その人たちの年収・所得が低いから、経済的格差は生まれているんだろうな、ってのは分かるけど。

でも、例えば【年齢階層別の収入や負債の推移】やOECD発のデータを元にした【日本で広がる経済格差は世代格差】あたりを思い起こすと、むしろ「単純な相対的経済格差」というよりは、「世代間経済格差」じゃないのかしら、そんな感じがしてきた。

それじゃ、他のデータで「経済格差」がどんな感じなのか見てみようじゃないか。

ということで探してみると、【社会実情データ図録の所得格差の推移】で素晴らしいデータと分析を見つけた。「相対的貧困率」などとは定義が違うけど、直観的に「なるほど」と分かるような図なんだな。

所得格差の推移/低所得世帯と高所得世帯の所得水準指数の推移(社会実情データ図録から抜粋)
所得格差の推移/低所得世帯と高所得世帯の所得水準指数の推移(社会実情データ図録から抜粋)

詳しくは引用元の元記事を参考にしてほしいけど、1980年以降横ばい・拡大を見せた「所得格差」は直近ではむしろ縮小してる傾向にあるっぽいんだよね。これについて元記事では「予想外の所得格差推移」として、

こうした長期的な格差拡大傾向に反して、巷間の見方や国民の格差意識とは裏腹に、聖域なき構造改革、規制緩和の推進を掲げた2001年4月以降の小泉政権下では、むしろ、所得格差は縮小に転じている。これはどうしたことであろうか。

(中略)

高度成長期の急激な格差縮小は、高所得層の所得上昇より低所得層の所得上昇がより急だったためである。この時期の工業の発達により、低所得層が、安定的な企業雇用に吸収されていった効果であると考えられる。

(中略)

バブル崩壊後の1990年代半ばからの長期経済低迷の時期には、低所得層、高所得層ともに所得水準が低下に転じた。全世帯では格差は横ばい、勤労者世帯では、やや格差拡大の状況となった。

2000年代に入ると、高所得層の所得低下は続いたが、低所得層は低下に歯止めがかかり、上述の通り、格差はむしろ縮小している。

(中略)

このように近年の所得格差は、家計調査によれば、国民意識とは逆に、賃金カーブのフラット化や社会保障による低所得層の所得低下抑制機能によって、縮小している。冒頭に引用したように小泉政権の政策が格差拡大を目指しているとしたら、政策は失敗に終わっている、あるいはこれから効果があらわれる類のものであると結論できよう。

統計データは大量観察に特徴がある。国民意識は、特徴的な事件や出来事をとらえて動く。勝ち組や負け組、ニート・フリーターの増加、大儲けする六本木ヒルズの入居企業、生活保護世帯の増加などは、格差拡大に結びつく社会現象である。こうした現象によって格差拡大が促進されている面も当然ありえる。しかし、大量観察の結果は、むしろ、年齢別賃金カーブや社会保障の充実といったもっと大きな変化を反映しているのだと考えられよう。ここでふれたデータだけでこう結論づけるのは、早計かも知れず、実証的な検証がなお必要であるが、そういう仮説でしか説明できない状況データを我々は手にしている。

(※2006年以降金融危機で高所得世帯の所得が乱高下しているため、それに応じて格差も大きく動いているが、それについては言及していないともある)

などとまとめている(引用が少々長くなってしまった。申し訳ない)。さらに簡単に端折ると、「バブルが崩壊した後は所得水準が下がり続けたが、低所得者層では社会保障などで歯止めがかかり、結果として格差が縮小している」「事件や出来事などインパクトのある報道で意識を左右されやすいが、全体的な流れをとらえるデータはその意識とは別の真実を提示する場合もある」というところだろうね。

賃金格差と世代間格差……!?
「社会実情データ図録」では【別項目でも相対的貧困率についてするどい考察】を行っている。こちらも参考にしつつ、独自にグラフを作り直してみよう。先ほどの「データブック国際労働比較2009」から、今度は「第5-12表 年齢階級別賃金格差(製造業、2002年)」を元にグラフを創ってみたよ。せっかくだから日本の部分は数字も入れてみた。どこかでまた使うかもね。

年齢階級別賃金格差(製造業、2002年、男性)(-29歳を100とした場合)※フランスは60歳以上のデータは無し
年齢階級別賃金格差(製造業、2002年、男性)(-29歳を100とした場合)※フランスは60歳以上のデータは無し

歳を重ねるにつれて経験も積むし技術も習得するし、責任も重大になる。年功序列制もある。だから賃金が拡大するのは当然といえば当然だね(そりゃ、能力など他の要素も多分にあるけど)。日本の場合はそれが際立っているというのが分かるかな。同時に、定年退職の問題も何となく見えてくるよね(例えばドイツが60歳以降もほとんど50代と変わらないのは、定年が長いのか、マイスター制のせいなのかもしれない。イタリアに至っては60歳以降の方が高賃金だ)。

せっかくなので同じ資料にある、日本国内の「生産労働者/管理・事務・技術労働者別の賃金推移」もグラフにしておくけど、これを見ると現場の人たちが退職すると「はいさよなら」って場合が多いのかな、と考えちゃうね。あるいは嘱託制度によるものかな。

年齢階級別賃金格差(日本、業種別、2002年、男性)(-29歳を100とした場合)
年齢階級別賃金格差(日本、業種別、2002年、男性)(-29歳を100とした場合)

さてこれらのデータと、「相対的貧困率」の国別データを掛け合わせてみよう……とその前に、相対的貧困率を出さねば。これはOECDのデータの最新版【Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countries】からのものだ。せっかくだから上の「年齢階級別賃金格差」と同じ国のを抽出しよう。2000年のを抽出したのは、その後のグラフで掛け合わせをするため。

相対的貧困率(%)(2000年ごろ)
相対的貧困率(%)(2000年ごろ)

それでは「相対的貧困率」と「年齢別賃金格差(29歳以下の賃金と50歳代の賃金の格差比率)」の相関関係を分布図にしてみよう。「あれ?」と思うはず。

相対的貧困率と年齢別賃金格差の相関
相対的貧困率と年齢別賃金格差の相関

そう、日本をはじめ、データが用意されている国では、「相対的貧困率」と「年齢による賃金格差」には相関関係があるようだね(因果関係とまではいえない)。単純に「相対的貧困率が高いから日本は貧しい」のではなく、安い賃金で働く非正規社員が増え(て所得の二極分化の後押しをし)たことと合わせ、世代間・年齢階層による格差もあると考えてよいみたいだ。

要は「高齢層の賃金が若年層よりとても高いので、必然的に若年層=低賃金・高齢層=高賃金となって、その差が大きいものだから、結果として相対的貧困率も大きくなる」一因、ということ。逆の例、例えばスウェーデンのように「年齢・世代による賃金格差があまりないから、結果として相対的貧困率も低いのかな」と考えればすぐに分かるよね。

(続く)

■一連の記事:
【「相対的貧困率」について色々と考えてみる……(1)発表データのグラフ化と二つの貧困率】
【「相対的貧困率」について色々と考えてみる……(2)本当の「貧困」を世界と比べてみる】
【「相対的貧困率」について色々と考えてみる……(3)「経済格差」って単なる格差なのかな】
【「相対的貧困率」について色々と考えてみる……(4)「経済格差」は「世代間格差」!?】



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