大企業2割が「海外へ生産移転」……製造業派遣禁止の場合

2009/09/24 08:04

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移転イメージ製造請負・派遣業界団体である社団法人日本生産技能労務協会は2009年9月18日、製造派遣業界の派遣先企業を対象にした、製造業派遣の法的規制強化に関する意識調査の結果を発表した。それによると製造業の派遣が禁止になった場合、調査母体企業の1割が海外への生産移転を行うと答えていることが明らかになった。移転傾向は大規模企業ほど顕著で、従業員500人以上の企業の場合は約2割が海外へ移転をすると回答している(【発表リリース、PDF】)。



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今調査は2009年6月25日から7月3日の間に、協会会員企業が告知し、紙面による回答調査を行ったもの。有効回答数は派遣先企業1206か所(工場や営業所などの事業所)。

派遣社員制度については特に製造業への派遣において、手取り収入の少なさをクローズアップする報道が繰り返し行われることで世論が形成され、「派遣会社が暴利をむさぼっている」というイメージが植え付けられている。現時点では法的に製造業の派遣制度そのものが法律で原則禁止・規制される方向で、政策上の話が進んでいる。

このような流れについて、もし製造業への派遣が禁止になった場合、現在派遣を請けている企業はどのような代替対応をするのだろうか。複数回答で尋ねたところ、「現行の派遣社員を直接雇用して期間工に切り替える」という意見がもっとも多く43%を占めた。次いで「パートやアルバイトへの切替」が39%、「請負・委託契約への切替」が27%を占めている。

製造業派遣が禁止になった場合の代替対応(複数回答)
製造業派遣が禁止になった場合の代替対応(複数回答)

このような傾向は別調査機関の調査結果【「派遣叩き」がもたらす現実……企業は「派遣を減らしパートやアルバイトを増やす」意向】でも見られたが、「派遣社員の禁止」がそのまますべて「正社員で穴埋め」されるわけではない事が分かる。一部は確かに「現行の派遣社員を直接雇用」「新たに正社員を雇用」で穴埋めされるが、期間工以外は簡単に労働力の移動が出来ないため、その時点からさらに新規採用の枠が増えるわけではない。

つまり「切替」のタイミングでうまく雇用されないと、「派遣が禁止されればその分正規雇用枠が増えるから、派遣社員も正社員になれる」という目論見は外れてしまう。そのタイミングを逃せば、他の新卒・中途採用予備軍と共に、新規正社員の雇用枠を目指すか、あるいはパートやアルバイトにスライドするしかないわけだ。そして各選択肢の割合を見る限り、目論見そのものがうまくいく可能性は決して高くない(正社員への切り替えは10%+10%しかない。しかもこれは「する・しない」でしかなく、人数までは問われていない。コストを考えれば、派遣社員の数より正社員雇用数が少なくなるのは当然の話といえる)。

大規模企業の海外移転は2割
さらに「海外への生産移転」は全体では10%だが、これを従業員数別にみると、小規模事業所ほど移転割合が少なく、大規模企業ほど多いことが分かる。中小企業基本法における製造業の「中小企業」定義である「従業員300人以下」(資本金は3億円以下)と照らし合わせ、大規模企業が該当する500人以上に焦点をあてると、約2割が「海外移転をする」と回答していることになる。近所の大きな工場のうち、5社に1社は海外に引っ越す計算だ。

製造派遣禁止時の代替対応(複数回答)で、海外への「生産移転」を回答した事業所(規模別)
製造派遣禁止時の代替対応(複数回答)で、海外への「生産移転」を回答した事業所(規模別)

リリースではこのような傾向について、「国内雇用情勢に大きな負担を与える」「大企業の生産の海外シフトは、中小企業にもしわ寄せを与える。結果として雇用情勢をさらに悪化させ、経済にも少なからぬ影響を及ぼす」と指摘している。



大量のスズメイメージかつてある国で「農作物を食い荒らすスズメは悪い鳥だ」とばかりにスズメの大量捕獲が行われた。しかし結果として、そのスズメがエサとしていたイナゴやウンカなどの害虫が大量発生する事態を招き、かえって農作物の生産量は激減してしまう結果を招いてしまった(ウソのような本当の話。【「大躍進政策」で検索】すると良い)。

物事は複雑に絡み合い、一つの事象にだけ耳を傾けてメスを入れると、それに関係する複数の場面でひずみを生じることになる。どれだけ多くの(人数・割合の、現場の)人が「製造派遣反対」をシュプレヒコールしているかは不明だが、彼らの意に従ったとしてどのようなプラス・マイナスの効果が生じるのか。「イネを食い散らすスズメを退治したら、害虫が大発生してイネが壊滅状態に陥ったでござるの巻」「雑草を刈るために農薬をまいたら、土壌が汚染されて何も育たない不毛の土地になったでござるの巻」などということにならないよう、思慮深い考察が求められよう。



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