【更新】テレビ放送は本当に凋落の真っただ中なのか? 総務省データの衛星放送部分を見直してみる

2009/09/14 06:30

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テレビイメージ先に【広告売上低迷で212億円の赤字へ……放送業界、初の赤字転落・総務省発表】で、総務省が2009年9月9日に発表した国内放送事業者の収支状況レポートを元に、「地上波テレビやラジオ各局全社の純損益が赤字に転落した」ことをお伝えした。用意された3年分のデータ、そしてこれまでの様々な類似データを見る限り、地上波のテレビ・ラジオは色々な面、特に財務面で「危機」に直面していることは間違いない。一方その総務省の別紙資料の中に、珍しく「右肩上がり」の表をいくつかみつけることができた。その一つが「衛星放送事業」。今回はそれにスポットライトを当ててみることにする。



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衛星放送(事業)とは言葉通り、放送衛星や通信衛星を使って放送されるテレビ放送。専用の受信機が必要なことや一般的に視聴料が必要な事、受信状態が天候に左右されやすい、無料で視聴できる地上波テレビの普及率の高さから必然性が低いなどの弱点がある。一方で、視聴者からの視聴料を収益の柱とできるため、広告主のことを気にせずに視聴者のニーズに従った(あるいは局の方針に沿った)番組構成が行われることなどが特徴でもありメリットでもある。

その衛星放送事業だが、総務省の各種資料を見ると、直近期では地上波テレビよりも調子は良いように見える。

事業別形態及び事業規模別にみた衛星放送事業の黒字社、赤字社数(平成20年度
事業別形態及び事業規模別にみた衛星放送事業の黒字社、赤字社数(平成20年度)

衛星放送事業に係る損益の推移
衛星放送事業に係る損益の推移

※参考:地上波テレビの営業損益・経常損益・当期損益推移
※参考:地上波テレビの営業損益・経常損益・当期損益推移

規模を別にすれば黒字企業数は赤字企業数を上回っているし、東経110度CS放送はまだギリギリ赤字なものの、いずれも(この数年は不景気のあおりを受けて横ばいだが)少なくとも地上波テレビの「右肩下がり」な状態ではない。

衛星放送は基本的にケーブルテレビと同様、「視聴者から直接受け取る視聴料を収入の柱」とする運営方法のため、視聴者=契約者の数が売り上げを左右する。

2008年度WOWOWの収入内訳(億円)。「その他収入」は子会社からのものが多数を占めると思われる。
2008年度WOWOWの収入内訳(億円)。「その他収入」は子会社からのものが多数を占めると思われる。

そこで契約者数の推移をグラフ化してみた。元データは[衛星放送協会のデータベース]からで、年ベースのものと、過去1年における先月比の増減を計算。NHK-BSは2009年8月分がまだ公開されていないので歯欠けになるが、次のような形になった。

過去の年度別 衛星放送契約者数の推移データ
過去の年度別 衛星放送契約者数の推移データ

過去1年間の月別衛星放送契約者変移数
過去1年間の月別衛星放送契約者変移数

年ベースではWOWOWはアナログとデジタルの合計数しか公開されていないので、月次でも同様の形式を用い、さらに「スカパー!」と「スカパー!e2」は相互補完的な立ち位置にあるため、両方を足したものも併記した。

このようにしてグラフ化した上で、先の収益グラフと合わせて考えると、

・NHK-BSは順調に契約者数を伸ばし続けている
・スカパー!は契約者数が減少しているがスカパー!e2がそれを補い余りある形に
・WOWWOW契約者数はほぼ横ばい
・スカパー!及びWOWWOWの契約者数がほぼ横ばいを続けているのに業績が良化しているのを見ると、経営努力が実を結んでいるのではないかと思われる
・地上波を見ていた人たちが次々と衛星放送に「鞍替え」している可能性は否定できない

などが見えてくる。

誰を相手にしているのか
地上波テレビと衛星放送(テレビ)のビジネスモデルをシンプルに説明すると次のようになる。

・地上波テレビ……商品(テレビ番組)の売り先は番組中のCM枠を買ってくれる広告主。その広告主が魅力を感じるように、視聴率を高める番組を作る。視聴者は広告主を引きつける材料でしかない。
・衛星放送……商品(テレビ番組)の売り先は視聴者。視聴者は面白いと思えば契約し、視聴料を支払う。つまらなければ契約を解除するまで。

衛星放送と地上波テレビのビジネスモデルの違い
衛星放送と地上波テレビのビジネスモデルの違い

地上波テレビは売り先に向けて番組を作っているわけではない。表現がやや乱暴になるが、広告主が広告枠を買ってくれるのならば、視聴者の声を無視した番組でも一向に構わないわけだ。もちろん中長期的に考えれば「視聴者を無視する」「視聴率が下がる」「広告主が魅力を感じずに広告枠を買ってくれなくなる」という流れに至るのだが、「番組を見てもらう視聴者」と「テレビ局の売り上げを計上してくれるスポンサー」が同一で無いため、なかなか気がつかないのが現状だ(広告ビジネスモデル全般の問題点ともいえる)。そして地上波テレビの現状は、「広告枠を買ってくれなくなる」の状態に陥り、ようやく気が付き始めたあたりだろう。

「お客の方を向いていない」ビジネスは商品そのものがお客の需要を反映しないものとなり、段々と劣化が進んでいく。地上波テレビの凋落の一因はここにあるのではないだろうか。実際、地上波テレビの視聴率は【テレビ視聴時間の推移】などにもあるように漸減を続けている。一方で衛星放送や、今回は掲載を略したが番組構成・ビジネスモデル的には衛星放送に近いケーブルテレビは、財務・契約者数的に堅調さをみせている(【総務省の資料などを参考の事(PDF)】)。

情報入手手段と、そこから流れる情報量が格段に増え、人の趣味趣向が多様化したことが、地上波テレビの凋落の一因といわれている。その多様化に対応しうる、そして視聴者の方を直接向いているからこそ、この「メディア不況」と呼ばれる21世紀においても、衛星放送事業やケーブルテレビ事業は、地上波テレビと違う傾向を見せているのかもしれない。


「ならば地上波テレビはどうすればいいの?」という声が聞こえてきそうだが、それを解決する特効薬を見つけていれば、当方(不破)はとうの昔にどこぞの放送局の顧問の席に収まっていることだろう(笑)。ただ、少なくとも「売る商品を魅力あるものにするには何が必要か」「以前と比べて競争相手が増えているのだから、これまでと同じ姿勢では通用しない」この2点は避けて通れないポイントであることは間違いない。



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