「テレビをつけている時間」と「視聴時間」、「視聴率」を考え直してみる
2009/09/11 17:23
先に【テレビは「見てるだけ」ではなく「つけているだけ」!?】で、マイボイスコムによる「テレビの視聴スタイル」に関する調査結果の一部を記事にした。そこで明らかになったのは「平日にテレビをつけている時間」と「テレビを実際に視聴している時間」との間には少なからぬ違いが見られること。その記事でも少しだけ触れた、「つけている時間」と「視聴時間」、そして「視聴率」についてもう少しだけ掘り下げて考えてみることにした。
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●「つけている時間」と「視聴時間」の精査
先の記事では「視聴時間」の棒グラフは、「平日テレビを見ている人」を母体としていた。平日テレビを見ていない人は2.8%しかいなかったため、誤差の範囲として目をつむり、同じグラフ内に「つけている時間(テレビを見ている・見ていないは問わない)」「視聴時間(テレビの内容をしっかりと見ている)」を併記したが、厳密にはやや問題がある。
そこで今回は、先の「視聴時間」の区分において、「そもそもテレビをつけてすらいない」(つまり先の記事のグラフでは区分外だった)項目を盛り込み、各項目の数字は逆算して算出しなおしたのが次のグラフ。最後のグラフは比較できるように、一部項目(ゼロ、無回答など時間としてカウントできないもの)をまとめてある。
平日テレビをつけている時間
平日テレビを視聴している時間
平日テレビをつけている時間/視聴時間(併記)
「ながら族」どころか、テレビのスイッチは入れているがテレビそのものを見ていない時間が案外長いことが改めて分かる。
それぞれの項目の中央値(「5時間以上」は5時間半)と割合から平均時間を算出すると、「見ている時間」は3時間21分、「視聴時間」は2時間35分という結果が出た。
平日テレビをつけている時間/視聴時間の平均値(時間)
あくまでも平均的な値でしかないが、「テレビをつけてはいるが視聴していない時間」が50分ほど存在することになる。
●「視聴率」とは
テレビ番組の人気度や勢い、そしてテレビ局が各スポンサーに広告枠を売り込む時に欠かせないのが「視聴率」。現在視聴率は(日本では)ビデオリサーチ社1社のみが測定を行っている。そのビデオリサーチ社の【解説ページ】によれば、
・「世帯視聴率」はどれくらいの世帯がテレビをつけていたかを表す。「個人視聴率」は誰がどれくらいテレビを視聴していたかを表す。
・一般的に言われる「視聴率」は「世帯視聴率」を表す。
・データ取得方法は3つ。
1.ピープルメーター(「世帯視聴率」「個人視聴率」)
表示されているテレビのチャンネルと、それぞれのテレビ毎に用意されている家族全員分の「テレビを視聴開始・終了時に押す個人個人のボタン」の動作がデータとして記録される。テレビがついている時間・チャンネル・それぞれのテレビで家族の誰が見ているのかが分かる。
2.オンラインメーター(「世帯視聴率」)
テレビに接続されたチャンネルセンサーからオンラインメーターでデータが転送され、1日の視聴状態が分かる。
3.日記式アンケート(「個人視聴率」)
調査票に家族全員がテレビの視聴状況を5分間隔で記入。調査員が訪問して回収し、データ化。
という具合。
ここで注意してほしいのは「世帯視聴率」は「テレビをつけていた世帯率」を表すこと、そして世間一般に言われている「視聴率」とは「世帯視聴率」を表すことである。つまり、「視聴率」は「テレビを視聴していた時間」からではなく、「テレビをつけていた時間」から算出された値であることが多い、ということだ(中には「個人視聴率」からの視聴率を「番組視聴率です」と提示する場合もある、かもしれないという意味)。
●GRPとは
新聞や雑誌、テレビ放送そのものでは「視聴率」を使うが、広告主や広告業界においては「GRP(Gross Rating Point、延べ視聴率)」という言葉がよくつかわれる。これは視聴率×テレビCMの本数を意味する。
1本CMを流すのは、
視聴率1%の番組で
20本CMを流すのと同じ
テレビ局側はGRP単位で広告枠を受注することが多い。そうでなくともGRPは広告を売り込む際の最重要指標となる。そこでより効率的にGRPが稼げる高視聴率の番組の方が、テレビ局側には都合がよい。単純にいえば、視聴率20%の番組でCM1本を流すことができれば、それは視聴率1%の番組で20本のCMを流すのと同じ効果を発揮する(とみなす)からだ。
●視聴率は本当に「視聴率」なのか? そしてそこから得られるGRPは??
さて、ようやくお膳立てが整った。
GRPを計算する時の「視聴率」は基本的に「世帯視聴率」を用いている(【ビデオリサーチの解説】などを参照。「個人視聴率」は性別・年齢別・職業別などに分けて、どれくらい見られていたかを知りたいときに利用する)。つまり、どれくらいの世帯がテレビをつけていたかが基準となる。
かつてお茶の間にテレビが配され、家族みんなでテレビの前に座って番組を拝聴し、見終わったらテレビを消して(解散)という視聴スタイルなら、「テレビをつけていた時間」=「テレビ視聴時間」であり、GRPの上でも特に問題は無い。
しかし上記マイボイスコムの調査結果では平日のテレビを「見ている時間」は3時間21分、「視聴時間」は2時間35分であり、実際の視聴時間はテレビをつけている時間の77.4%、約3/4でしかない。実際には「音くらいは聴いているかも」「ちらりと見ているかも」という誤差を考慮すれば、「テレビ視聴時間はテレビをつけている時間の約8割」とみなしてよいだろう。
GRPを見るならば、
「テレビをつけている」割合で算出される
世帯視聴率で求められたGRPから
1-2割は割り引く必要がある?
日本のテレビ視聴のスタイルに関する長期的データが無いことや、マイボイスコム自身もこの類の調査は今回が2回目で1回目は【去年おこなわれたもの】であり、視聴率の「広告展開の上での有効度」の変移を検証することはできない。しかし世帯構成の核家族化やライフスタイルの変化を見れば、少なくともビデオリサーチが1977年にオンラインメーター方式で世帯視聴率を翌日判明できるようになった時と比べ、大きく変化していることは間違いない。
言い換えればテレビの電源が入っていないと不安だが、特にじっくりと視聴しているわけではない、何か音が聞こえていればそれで安心してしまう。いわゆる「環境ビデオ的なテレビ視聴」スタイルが増えており、広告主にとっては無意味な「視聴率に反映されている時間」が増加していることは確実だろう。
現在各局地上波放送局の視聴率低迷や広告出稿の減少(広告主側のお財布事情と地上波放送の「媒体力」の低下が要因)が問題視されている。しかし実際には、その広告の契約の際に交わされているGRPそのものが、かつてのそれとは内容・質的に異なるものとなっていたとしたら……少なくとも広告主にとっての「有効」視聴率は、今提示されている「世帯視聴率」よりも小さいものとして考えるべきなのかもしれない。
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